ここに自然や生命への
オマージュがある
南城守
(奈良県立美術館学芸課長)
古事記編纂1300年の記念の年に、絹谷幸二が「古事記」を描く。これは開館40周年を迎える奈良県立美術館が、満を持して開催する「絹谷展」の核として位置付けた構想である。神々と天皇の結びつきを記した古事記は、自然に対する畏怖が神話化され擬人化され、人間のイメージの豊饒を知らしめるものだ。八百万の神々への熱い民族信仰で培われた日本人のイメージはまさに百花繚乱。人間の無限に広がる想像=創造の可能性を教えてくれる。
奈良出身の絹谷幸二は、アフレスコ古典技法による独創的なスタイルと、精力的な制作で40年にわたって日本の美術界の第一線で活躍してきた画家だ。マグマが吹き出すかのような豪快な原色のイメージ世界と女神たちの微笑みは、生命への賛歌を高らかに歌い上げ人々を魅了し続けてきた。古希を間近に控える絹谷だが、旺盛な制作力は宇宙の膨張に喩えられるように未知、未踏の世界へ突き進んで行く。二次元(平面)、三次元(立体)を問わず、そこに空間が在る限り絹谷の貪欲なまでの創意は果てることが無い。
その絹谷が畢生のテーマとして取り組んだのが、今回の「古事記」である。主催者側の提案に、急遽日本各地の取材を敢行し、立体を含めた20点に及ぶ大連作を制作した。「黄泉比良坂」「天の岩戸」「天孫降臨」「神武東征」「ヤマトタケル」などをテーマとした200号群の迫力もさることながら、等身大の立体作品群も圧巻だ。スティロフォームを裁断し顔彩を施したアマテラスや神武天皇やヤタガラスたちが、展示空間一杯に配され、大阪芸術大学放送学科協力の下、絹谷ワールド全開の展覧会となる。
もとより、本展は絹谷芸術の軌跡をたどる意味で3部構成となっており、第1部では〈絹谷芸術の形成〉として1960~70年代の初期の代表作からその原点を探り、第2部は〈絹谷芸術の開花〉として1970~80年代のスタイルの確立と立体の誕生を、そして第3部には〈絹谷芸術の飛躍〉として円熟期を迎えた1990~2000年代の代表作から新作の古事記シリーズまで紹介するものだ。
絹谷作品は時代と共に千変万化してきた。モチーフは洋の東西を問わず、人物や風景、動植物や静物はもとより、社会情勢、宗教、神話、伝説、祭礼、風習等々、そこに奇想・幻想などを絡め、あるときは底抜けに明るく、またあるときは深い悲哀をたたえて、二次元に三次元にと百花繚乱のスタイルを展開してきたのである。だが、様々に変化し展開されても、一番大切な精神性は形を超えてつながっていく。変容の中の精神の持続、流行の中の不易である。絹谷はそこに芸術の真価を問うのである。絹谷幸二がかかげる芸術への理想、そして自然や生命へのオマージュがここにある。
豊穣なる絹谷ワールドへ、ようこそ!
【会期】 2012年10月20日(土)~12月16日(日)
【会場】 奈良県立美術館(奈良市登大路町10-6)
☎0742-23-3968
【休館】 11月19日・26日、12月3日・10日
【開館時間】9:00~17:00(金・土曜のみ19:00まで、入館は閉館30分前まで)
【料金】 一般800円 大高生600円 中小生400円
【関連リンク】
絹谷幸二講演会「古事記を描く」
11月4日(日)14:00~
【会場】 奈良県文化会館小ホール
※ 定員300名(先着順)、無料。申込は電話かファックスで以下まで。
【申込先】 奈良県立美術館 ☎0742-23-3968 fax0742-22-7032
※髙島屋各店においても、以下の会期で「絹谷幸二展」が開催されます。
美悠久・夢無辺 絹谷幸二展
日本神話に基づく壮大なテーマの作品のほか、四季の中で様々な表情をみせる富士、鮮烈なバラに、日月に映り輝くヴェネチア風景など、ダイナミックな大作から小品までを一堂に展観。
【大阪展】 11月14日(水)~20日(火)髙島屋大阪店6階美術画廊
【京都展】 11月21日(水)~27日(火)髙島屋京都店6階美術画廊
【横浜展】 12月12日(水)~18日(火)髙島屋横浜店7階美術画廊
【名古屋展】 12月26日(水)~31日(月)ジェイアール名古屋タカシマヤ10階美術画廊
【岐阜展】 2013年1月16日(水)~22日(火)髙島屋岐阜店8階美術画廊
「新美術新聞」2012年10月21日号(第1294号)4面より