酒井理事長 挨拶「司馬遼太郎さんの言う〝侍の矜持〟と日本人」
新たに3館加盟、135館の公立美術館連合体に
全国の公立美術館132館が加盟する美術館連絡協議会(理事長=酒井忠康・世田谷美術館館長、事務局=読売新聞東京本社事業局)の2012年度総会と関連催しが、10月25日・26日の両日、東京新宿区のリーガロイヤルホテル東京で加盟各館長、学芸関係者など約170名が参加して開かれた。議題の理事会・各委員会報告ほか山崎正和氏(評論家・劇作家)による特別講演会、懇親会そして近隣加盟館3企画展の自由鑑賞などが滞りなく実施された。
毎年、総会冒頭の挨拶でウィットとユーモアに富んだ小話を披露しつつ、鋭く問題点を指摘する酒井忠康理事長は、今回はこう切り出した。
「いろんな意味で深刻な事態を迎えている美術館のことを考えますとついつい慎重になり気が重くなります。ご出席の皆さんにも私と同じ思いの方も居られるでしょうけど、今日は不満や意見でなく小話を紹介します。
司馬遼太郎さんと歴史家・萩原延壽さんとの対談(『司馬遼太郎封話選集4/近代化の相克』文春文庫)から拾いました。『日本よ“侍”に還れ』の中の『失われた文明』という所です。萩原さんが『教養とは躾だ』といった石川淳の言葉を引用したのを受けて、司馬さんは言います。―例えば、小さな躾でいえば、侍は雨が降っても走らない。そして道の真ん中を歩く。雨に濡れないように軒先を歩くのは、見ていて浅ましいものでしょう。曲がり角など、直角に曲がるそうです。直角に曲がるのが侍というものなんです。僕らはちょっとでも早道しようと、角のほうをさっとまがりますけど、侍はそれをしない。つまり、侍には、どうやればシビライズドされた人間ができるか、つまらないことまでキチンとした取り決めがあった訳です。それらが集積して普遍化していくと、文明の姿となる―という。面白い話ですね。通勤帰りの夜の渋谷で、こんな話をしたらオジンの古臭い信条にしがみつくな、とか大きな御世話よ、と逆にやりこめられそうですが…。今日はいい出会いの機会となりますよう、同時に各美術館の元気回復を願っています」と語った。
また、読売グループを代表して久保博・東京本社常務取締役事業局長が挨拶し、「先日、霞が関の官庁OBと話したら、日本はまだまだ大丈夫、世界に負けない中小企業の技術を含め1400くらいはある、という。ただこれからは技術だけではやっていけない。プラス、美的な感覚とかデザインとか伝統技術を付けないと世界の市場で伍していくのは難しくなってきています。なぜか?世界的なブランド化とか高い付加価値を持つ工業製品が生まれる背景とは、国民の生活水準とか美的なセンスの総体が関係するのではないか、と思います。
美術館とは美しいものを美しいと感じる、その美のインフラをお預かりし、国民の美的センスを培う、という機能を持っているのではないでしょうか。美連協は、美を連ねて力を合せる組織であります。我々も同じように国民の美しいものをもっと生活の中で楽しんで頂くこと。日本の非常に高度化された資本主義、経済もその一つの方向ですし、生活とか文化もです、日本の行く末はそのようになっていく、と思います。そういう意味で美術館の役割は経済的には大変ですが、小さくなる事は決してないと考えます。
美連協は今年で30年の節目。私たちは愚直にずっと活動を続けていきます。是非とも皆さんも美の涵養といいますか、国民の美的センスを育てるのだ、とのプライドをもって活動して戴きたい」などと述べた。
続いての議事で、企画委員会報告があり、12年度巡回展報告、13年度企画展紹介などがあった。
新加盟館として萬鉄五郎記念美術館(岩手県花巻市、中村光紀館長)、川崎市岡本太郎美術館(川崎市、北條秀衛館長)、新潟市新津美術館(新潟市、横山秀樹館長)の3館が紹介された。これにより美連協は135館からなる公立美術館連合体となった。さらに美連協大賞・奨励賞報告、カタログ論文賞委員会報告、事務局報告などがあり総会日程は終了した。
その後、特別講演会として評論家・劇作家山崎正和氏による「文明と美術館」が行われた。次回の美連協総会等は2013年10月17日(木)、18日(金)、東京で開催予定だ。
「新美術新聞」2012年11月21日号(第1297号)3面より