東京メトロ有楽町線豊洲駅に金工家、東京藝術大学長・宮田亮平氏の原画・監修になるパブリックアート作品が設置され、8月26日午前、関係者らが出席して作品除幕式が行われた。正午より一般公開された。作品は迫力ある陶板レリーフの「豊洲今昔物語」。公益財団法人日本交通文化協会(滝久雄理事長)の企画・協力によるもの。現在、豊洲に在住する宮田氏は「海への思い、豊洲の現在・過去・未来に想いを馳せて作品を制作した」という。
除幕の式典では開式、来賓挨拶、作者である宮田氏の作家挨拶、花束贈呈などがあり、閉式後は早速多くの来場者や通行人が興味深そうに作品に見入っていた。
このパブリックアート作品は豊洲駅(江東区豊洲4-1-1)の新木場方面改札口の通路に設置された。NKBクレアーレ工房の制作、公益財団法人メトロ文化財団(梅崎壽会長)の協賛。陶板レリーフ「豊洲今昔物語」の規模は、高さ2.7m、幅5.0m。
豊洲は「豊かに栄える島(洲)」との願いを込めて命名されたという。この地区は東京湾を埋め立てて造られた新しい都市だ。現在は高層マンション、オフィスビルの建築が着々と進み未来に向けて進化し続けているが、江戸時代のころにはこの辺りは豊かな海で、時折クジラやイルカも姿を現し、江戸庶民たちを喜ばせていたようだ。
宮田亮平氏は現在、豊洲に住み、日々有楽町線を利用する立場だ。そうした宮田氏が海への思い、この地の現在・過去・未来に自らの人生をも重ねながら「豊洲今昔物語」を創作した。陶板レリーフ作品には潮を吹きながらゆったり泳ぐクジラの親子、楽しそうに群遊するイルカ、江戸前のキス釣りに興じる釣り人やカモメたち、一方で発展を象徴するかのような高層ビル群と臨海地区。陶板ならではの盛り上がりと造形が大胆かつ巧に設計され、描かれた印象的な大作陶板である。
日本古来の素材である陶を用いて制作されたが、作品には274個の陶板のピースが構成され、造形的魅力と共に味わい深い釉薬の色調も大きな見どころだ。重厚感ある焼き物としても鑑賞できよう。
「豊洲今昔物語」について、宮田氏は「有楽町線豊洲駅の改良工事に伴い、潤い空間を演出するパブリックアートを、との依頼でした。私は新潟県佐渡市に生まれ、家の裏はすぐ海で、毎日潮騒をきいて育ちました。故郷を懐かしむ気持ちが強くなって来た頃、住処を東京の海が見える場所に探したのです。ふと、豊洲駅に降り立ち、ビルに昇り、辺りの風景を眺めてみると、目の前に海が広がり身近に海を強く感じることができたのです。むかし、ここが海であったということにも愛着を感じ豊洲の住民になることを決めたのです。そういう場に作品を制作できることはこの上ない喜び。皆様に感謝します」という。
つけ加えて「むかしは海だった…そんな豊洲のルーツを表すことで現在の豊洲への希望を感じていただければと思います。この壁画前が多くの方々の待ち合わせ場所となり大勢の方から親しまれることを願っています」と語った。
陶板レリーフ「豊洲今昔物語」は、豊洲駅の新たなシンボルとして愛され、親しまれそうだ。
「新美術新聞」2013年9月11日号(第1322号)3面より
【関連記事】 宮田亮平氏 文化審議会会長に再任される