【寄稿】 「国際ガラス展・金沢2013」に寄せて=武田厚

2013年10月16日 18:22 カテゴリ:最新のニュース

 

限りなき造形の多様性

 

昨年、アメリカ、オハイオ州のトレドの町でスタジオグラス運動50周年の記念事業があった。会場はその発祥地として縁深いトレド美術館で、主催はシアトルに本部があるGAS (Glass Art Society)。もう半世紀、という実感はあるが、まだ半世紀、とも云える歴史だ。

 

日本でのスタジオグラスの受容は早く、70年代初めには作家集団としての日本ガラス工芸協会が生まれている。世界のガラス界が一つの盛期を迎えた80年代に「国際ガラス展・金沢」はスタートし、現代ガラスの発展に大いに貢献して今日に至っている。

 

国際コンクールとして今や世界で唯一となったこの展覧会も、振り返ってみると、いつの間にか30年の歴史を創り上げてきたことになる。開催当初の時代の騒々しい程の熱気に比べると、このところのガラス界の動向はやや大人しい感じがしないでもない。とはいえ、近年のシカゴのSOFA等を見ると、ガラス部門が今なお主流のように輝いて他分野を圧倒し、広い会場を賑わしているし、他方では、一時に見られた軽薄な思いつき作家志望の層は明らかに精査され、固有の理念と技術をしっかり持って本気でガラス芸術の創造に取り組む若い作家が増えているのは実に好ましい傾向だ。中でもとりわけ日本作家の成長振りは見事なもので、このコンクールでの欧米の審査員も毎度驚いている。

 

 

その審査員の評価基準のようなものを受賞作品から分析してみると、常識的だが、何よりも発想と表現の独創性を先ず挙げている。例えばグランプリを最後まで競った2作品、姜旻杏「Shape of Emotion」と塚田美登里「光華」は、造形の基点が全く対照的でありながらユニークさが際立つ作品として優劣つけがたいものだった。つまり、前者は彫刻的なオブジェであり、後者は伝統的な器の形体を残しながらその領域内において大胆な実験を試みた作品なのである。簡単に言えば伝統か現代か、ということになるが、実はそれらの2作品は共に自国の伝統文化に深く根ざした思索と美意識をもって現代を見据える、という個別の精神性に強く裏打ちされているものだった。表現の強さや作風の独自性はそんなところから生まれているのだ。

 

同じ意味で、銀賞のデンマークの作家ダム・ステファンの作品も異色そのものと云える。16本のシリンダーに得体の知れない生命体を浮遊させ、「これは私の花だ」と記している。北欧の風土を感じさせるミステリアスな作品だ。受賞や入選作の全体を見渡すと、限りなき表現の多様性を可能とするのはガラスという素材だけかも知れない、とこの度もつくづく思った。

 

 

 

(同展審査委員長 美術評論家)

 

国際ガラス展・金沢 2013

■ コンペティション展:入賞・入選作品69点を展示

【会期】 2013年10月23日(水)~11月4日(月・祝)

【会場】  [入賞作品] しいのき迎賓館ギャラリーA (金沢市広坂2-1-1) ☎076-261-1111 アクセス

[ 入選作品] 金沢21世紀美術館市民ギャラリーB (金沢市広坂1-2-1)☎076-220-2800 アクセス

【休館】 無休

【開館時間】 10:00~18:00 (金・土曜は20:00まで、最終日は17:00まで)

【料金】 無料

 

■ コレクション展:石川県デザインセンターのコレクション作品約30点を展示

【会期】 2013年10月17日(木)~11月10日(日)

※金沢21世紀美術館会場の会期は、10月23日(水)~11月4日(月・祝)

【会場】 しいのき迎賓館ギャラリーB (金沢市広坂2-1-1) ☎076-261-1111 アクセス

金沢21世紀美術館市民ギャラリーB (金沢市広坂1-2-1)☎076-220-2800 アクセス

【休館】 無休

【開館時間】 10:00~18:00 (金・土曜は20:00まで、最終日は17:00まで)

【料金】 無料

 

【巡回展】 「国際ガラス展・金沢2013 in 能登島」 2013年11月30日(土)~2014年1月26日(日) 石川県能登島ガラス美術館

 

【関連リンク】 「国際ガラス展・金沢2013」公式HP

【関連ページ】 国際ガラス展・金沢2013 大賞に姜旻杏氏「Shape of Emotion」

 

「新美術新聞」2013年10月21日号(第1326号)2面より

 


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