平成25年度の文化勲章、文化功労者が本日10月25日に発表された(発令は11月3日を予定)。美術分野では、文化勲章が書の髙木聖鶴氏に、文化功労者が日本画・文化財保護の上村淳之氏らに決まった。
書の髙木聖鶴氏(90、本名・髙木郁太)は1923年岡山県総社市生まれ。独学で書を学び、47年に書家・内田鶴雲に師事し、本格的に書へ取り組んだ。50年に日展初入選、以後は日展を中心に活躍し、現在は日展参事をつとめる。かなの作品に壁面芸術としての可能性を探求した「大字かな運動」に参加し、古筆を熱心に学ぶとともに、王羲之など漢字の古典研究にも没頭。それにより、かなと漢字双方の美をたたえた気品ある書風を展開し、日本を代表するかなの書家として活躍してきた。また、師の創設した朝陽書道会では78年より会長、読売書法会、日本書芸院では最高顧問をつとめてきた。2008年に岡山県立美術館で大規模な個展を開催、昨年は銀座・和光で卒寿記念展を開催。日本の書の発展向上へ尽力し、多大な貢献をした功績は極めて顕著と評価された。
日本文学・比較文学の中西進氏(84)は1929年東京生まれ。『万葉集』の優れた研究は「中西万葉学」とも呼称される総合性な成果を生み出し、近年は小学生らに『万葉集』を講義するなど啓蒙活動を実践。京都市立芸術大学学長、奈良県立万葉文化館館長などもつとめた。
その他の文化勲章は、電子工学の岩崎俊一氏(87)、映画の高倉健氏(82、本名・小田剛一)、医化学・分子免疫学の本庶佑氏(71)の全5名。
日本画・文化財保護の上村淳之氏(80、本名・上村淳)は1933年京都市生まれ。現・京都市立芸術大学を修了し、新制作協会、創画会を主な発表の場としてきた。日本画と西洋画の相違点を花鳥画に見出し、柔らかで清澄、そして自然と共生する感性が豊かにあらわれた独自の画風を確立。たしかな観察は、263種、1600羽もの鳥との暮らしが根底にある。創画会では2005年から12年まで理事長、京都市立芸術大学では教授、美術学部長、副学長などをつとめ、現在は名誉教授と広く美術界の発展に尽力。また、10年より文化庁平城京跡第一次大極殿復原事業にて、キトラ古墳の四神を参考に内壁画へ四神十二支を描くなど、文化財の保護復原にも大きく貢献している。日本画家としての優れた作品発表、関係団体の要職の歴任、文化財保護への尽力と、功績は顕著であると評価された。
建築の槇文彦氏(85)は1928年東京生まれ。東京大学工学部を卒業後、米国のハーバード大学大学院を修了。昭和30年代にはメタボリズム運動に参加し、活躍の場が広がるにつれてモダニズム建築の中核的な存在と目された。東京・代官山のヒルサイドテラスのプロジェクトは、その成果が特筆される。毎日芸術賞、高松宮殿下記念世界文化賞建築部門を受賞し、海外ではプリツカー賞などを受賞。幅広い活躍に国際的な評価の高さ、教育者としての側面などが顕著とされた。
文化芸術関係の主な文化功労者は、中国思想史・中国史・国際貢献の吉川忠夫氏(76)、詩の吉増剛造氏(74)など。そのほか、短歌・岡野弘彦氏(89)、邦楽・木原司都子氏(80)、国文学・久保田淳氏(80)、ゲノム科学・国際貢献の榊佳之氏(71)、洋楽・文化振興の堤剛氏(71)、評論・翻訳の中井久夫氏(79)、細胞分子生物学・廣川信隆氏(67)、半導体工学・電子産業技術の舛岡富士雄氏(70)、比較認知科学・松沢哲郎氏(63)、生物物理学・栁田敏雄氏(67)、社会心理学・山岸俊男氏(65)ら全15名。
文化勲章親授式は「文化の日」11月3日に皇居で、文化功労者顕彰式は11月5日にホテルオークラ東京で行われる。文化勲章の延べ人数は374人(現存者70人)、文化功労者は791人(現存者223人)となった。
「新美術新聞」2013年11月1日号(第1327号)1面より
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