【レポート】 第56回ヴェネチア・ビエンナーレ出品作家に塩田千春 キュレーターには中野仁詞

2014年05月31日 09:44 カテゴリ:最新のニュース

 

展示プランは 《掌の鍵》-The Key in the Hand-

 

中野仁詞氏(左)と塩田千春氏(右)

 

国際交流基金は5月29日、第56回目ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(2015年5月9日~11月22日開催)の日本館キュレーターおよび出品作家を発表。キュレーターには中野仁詞氏(1968年生まれ、神奈川芸術文化財団学芸員)、出品作家には塩田千春氏(1972年生まれ)が決定した。展示プランは「《掌の鍵》-The Key in the Hand-」。塩田氏はこれまで「生きることとは何か」、「存在とは何か」を探究しつつ大規模なインスタレーションを中心に、立体、写真、映像など多様な手法を用いた作品を制作。神奈川県民ホールギャラリーでの「沈黙から」(07年)で芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞、主な個展に高知県立美術館(13年)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(12年)など。またキエフ国際現代美術ビエンナーレ、瀬戸内国際芸術祭、あいちトリエンナーレ、光州ビエンナーレ(韓国)、横浜トリエンナーレなど多数の国際展参加経験を持つ。

 

今回の展示プラン《掌の鍵》では日本館の展示室と野外ピロティを使用したインスタレーションを予定。展示室には空間を埋めつくすように赤い糸が天井から吊り下げられ、その糸の先には一般から募る約5万個の鍵が結び付けられる。また糸と鍵が降り注ぐ空間の中には2艘の舟が置かれ、数多の鍵=記憶の雨を受け止める両手を象徴する。

 

《掌の鍵》模型写真 2014 Photo: Sunhi Mang  画像:国際交流基金提供

《掌の鍵》模型写真 2014 Photo: Sunhi Mang
画像:国際交流基金提供

 

また日本館1階にあたるピロティには四角い大型のボックスが設置され、4つの壁面のうち3面には鍵を乗せた子どもの掌の写真3点を展示し、残る1面には映像を4つのモニターで上映。映像は2歳から3歳の子どもを対象に、生まれる前・生まれた直後の記憶を取材し制作、上階の赤い糸・鍵・舟による多くの記憶の集合からなる空間を支える、という構造となる。

 

《掌の鍵》模型写真 2014 Photo: Sunhi Mang  掌の鍵》 2014 Photo: Sunhi Mang  画像:国際交流基金提供

<左>《掌の鍵》模型写真 2014 Photo: Sunhi Mang
<右>《掌の鍵》 2014 Photo: Sunhi Mang
画像:国際交流基金提供

 

尚、今展ではインスタレーションに使う鍵を一般から募集している。詳細は以下のリンクより。

《掌の鍵》制作のための鍵を募集します。

 

■中野氏のコメント

「映像などではなく、空間を埋め尽くしたものがいいのではないかと思い塩田さんに声を掛けた。鍵というマテリアルは常に掌にある大事な存在であり、未知なる世界に接するきっかけを作るものでもある。掌から鍵に移った記憶、鍵に積み重なった記憶を真心を伝達する媒介と捉えて、5万個の鍵を設置する。展示の設営にはかなりの苦労を予想しているが、塩田さんも場数を踏んでおり(経費のことなども踏まえながら)その範囲内で頑張りたい。」

 

中野仁詞氏

 

 

■塩田氏のコメント

「ヴェネチア・ビエンナーレのコンペでは前々回涙を飲んだ経験がある。このコンペは誰と戦っているのか分からない難しさがある。ヴェネチアの舞台は大きく、どう戦っていいのか分からなかった。でもそれを支えてくれたのは中野さんが言ってくれた『この2ヵ月でプランを作れるのは塩田千春しかいない』という言葉。多分これが(ヴェネチアにおける)私の最後の挑戦だ、そういう気持ちで2ヶ月間ヴェネチアのことだけ考えてプランを作っていた。最初は全然違うプランだったが、去年大切な人を失い、その辛さを経験した。そして自分の大切なものを集めたいという衝動に駆られ、《鍵》というテーマに至った。前回の田中功起さんや建築展でも震災がテーマになっていたが、中野さんから『震災を経て、今何を提案できるかをテーマにしてプランを作っていこう』と言われ、今回の作品となった。作家だけではできないことがたくさんある。キュレーターと2人で、このヴェネチアを乗り越えて行きたいと思う。」

 

また作品に関して「普段は黒の糸で空間を編む作品が多い」としながら赤い糸を使う理由として「去年2人目の子どもを死産し、その後に父を亡くした。私自身も生きていることが辛くなり、ふとした瞬間、彼らのところに行きたくなったこともある。でもそれが出来なかったのは自分が一人の娘の母親であったから。いつまでも自分だけが傷ついていられなかった。それが今回の作品へと繋がったんだと思う。その経験がなければ赤い糸で何か大切なものを結びたいという気持ちは生まれなかった」と語った。

 

塩田千春氏

 

 

■選考の理由

尚、今回の選考結果に関して国際展事業委員会委員長・水沢勉氏(神奈川県立近代美術館館長)は次のように語った。

「今回は前回の蔵屋美香・田中功起の成功を踏まえ、実力のある1970年前後生まれの中堅キュレーター・アーティストの組み合わせによる若々しい提案があった。投票は匿名で行われたが、最終的には中野氏の案に4票、保坂氏の案に2票というかたちとなった。単独のアーティストによる個展形式のものとグループ展形式のものがあったが、高橋氏の提案は韓国館と協力するかたちでの提案であり、グループ展の要素が濃いものだったといえる。またグループ展の場合、どういう化学反応が起こるのか読み切れない、やってみないと分からない部分が多い。それも魅力的だが賭けであるとも言える。しかし委員会では個展というかたちで訴える方がインパクトがあるのではないかという意見が最後まで強く残った。」

 

また韓国館とのコラボレーションについての質問に対しては「非常にチャレンジングな提案、これからはそういう可能性についても考えていかなくてはならないという意見は多かった。無理だから諦める、ということではない」としたが、「ただ現実的な問題として高橋さんのプランは思っていた方向には行っていないというところに来ていたのも確か。そういった意味では大変難しい方向性を提案してもらったが、可能性は開いていきたい」と述べた。

 

国際展事業委員会委員長・水沢勉氏(神奈川県立近代美術館館長)

 

 

なお今回の指名コンペティションにおいて中野氏の他に挙がった候補者は次の通り。

◇飯田志保子(インディペンデント・キュレーター)/小泉明郎《家族の肖像》

◇住友文彦(アーツ前橋館長)/小泉明郎・高山明《閾と境界》

◇高橋瑞木(水戸芸術館現代美術センター主任学芸員)/高嶺格《Global Groove 2015》

◇保坂健二朗(東京国立近代美術館主任研究員)/折元立身・砂連尾理・野村誠《Of the old, With the Old, for the Old  Art After Tatsumi Orimoto》

※各候補者の展示プラン詳細は国際交流基金ウェブサイトに詳細あり

 

 

ヴェネチア・ビエンナーレ

1895年に最初の美術展が開かれて以来、100年以上の歴史を刻む芸術の祭典。ヴェネチアの市内各所が会場となり、国別参加方式を採る数少ない国際展として世界の美術界の注目を集める。近年、世界各地で開催される芸術祭のモデルケースともいえる。日本は1952年の第26回美術展以来、連続して参加。前回2013年ではアーティスト・田中功起氏とキュレーター・蔵屋美香氏による展示が日本館として初の特別表彰を受けた。美術展での受賞歴はこれまで池田満寿夫氏(1966年国際大賞受賞)、千住博氏(1995年名誉賞受賞)、オノ・ヨーコ氏(2009年最高賞受賞)などがある。

 

日本館正面 ©PEPPE MAISTO 画像:国際交流基金提供

 

【関連リンク】 国際交流基金

 


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