ナチス略奪の絵画1500点見つかる ピカソなど1千億円超
所有者のグルリット氏は「正統に相続」と返還を拒否
昨秋、ドイツ南部のミュンヘンやオーストリアでナチス・ドイツがユダヤ人らから略奪した絵画など約1400点が見つかり、20世紀絵画のピカソ、マチス、ルノワール、シャガールらの作品が含まれている、と報じられた。週刊誌フォークスが伝えるところでは総額約10億ユーロ(約1300億円)の価値ともいう。南ドイツ新聞では、その中にカタログ・レゾネから判明した「松方コレクション」の名が登場、流失したエドゥアール・マネの作品のたどった意外な経路がわかった。
共同電によると、2013年11月現地検察当局が記者会見し、ピカソやマチスらの巨匠を含む20世紀絵画計1406点がミュンヘンで見つかったと発表、保存状態は良好で専門家の鑑定により真作と判断された。当初それらは50年以上もうす暗い部屋に隠してあったが、2011年脱税事件の捜査の過程で税務当局が80歳の男性所有のアパートで発見、最近になって世界的に著名な画家の作品が多数含まれていることが判明した。その内、約600点に略奪品の可能性があるという。アパートの所有者はコーネリウス・グルリット氏。
その後、オーストリア通信は、グルリット氏の広報担当者がオーストリア中部ザルツブルクの同氏の家からもモネなどの絵画60点以上が見つかったことを明らかにした、と報じた。絵画は同氏の所有物でルノワールやピカソの作品もあったが、広報担当者によるとそれらはナチスの略奪品ではないとみている。
グルリット氏の父親は著名な画商でナチスにも協力し、略奪美術品を売りさばいていたといわれる。作品群は1930~40年代に入手したらしく、クレーやキルヒナーの作品も含まれていた。
同氏は「絵画は画商だった父親から正当な手続きを経て相続した。自主的に返還するつもりはない」と断言。同氏は戦後も訴追されず、絵画は「私物」として合法的に所有していたとされる、と共同電は伝える。これに対しユダヤ人団体などはドイツ政府に本来の所有者を突き止めて遺族に返還するよう求めているという。
現地の南ドイツ新聞には、エドゥアール・マネのカタログ・レゾネから「松方」の名前が『Baron Mazukato in Tokio』として登場した。1930年代に日本人実業家・松方の所持品であった作品が1点含まれていたことが判明したため、国立西洋美術館に情報照会があった。
「松方コレクション」のマネ作品がどうして盗難美術品のなかに、しかもナチス略奪美術品と一緒にあったのだろうか。国立西洋美術館刊行物によれば、フランスで同コレクションを松方氏より任され、管理していた故・日置釭三郎氏が1944年に売却したという作品名と一致した。それゆえ直接なのか間接的にか、おそらく合法的に売却されて画商グルリット氏の手に渡ったであろうことが推測されるという。いずれにしろ所在不明だった旧松方コレクションが「再発見」されたことは大きな話題だろう。
川崎重工業社長を務めた松方幸次郎(1865~1950)は1916年以降美術品収集を始めた。そのコレクションは浮世絵(約8000点。現在、東京国立博物館が所蔵)を含め、絵画・素描・版画・タピスリーなど総数1万点に及んだ。日本に運ばれた美術品は、1927年の経済恐慌のため殆ど売り立て等で散逸したが、ヨーロッパにもかなりの数が残された。ロンドンにもあったが火災で消失。パリにはロダン美術館に約400点保管されていたが、第二次世界大戦末期に敵国財産として仏国政府管理下に置かれ、51年サンフランシスコ平和条約で仏国有財産になった。日仏友好のため「松方コレクション」として絵画・彫刻等370点が日本に寄贈返還され、59年国立西洋美術館が誕生した。
「新美術新聞」2014年6月21日号(第1347号)3面より
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