長谷川路可や北村西望、宮本三郎ら近代の巨匠の手による美の遺産の行方
昨年9月7日、2020年オリンピック・パラリンピックの東京での開催が決定した。そのメイン会場となる新国立競技場(仮称)の建設に向けて、現国立競技場の本格的な解体工事が開始されようとしている。新宿区霞ヶ丘町に位置する同競技場敷地内には、1964年東京オリンピックを記念して設置された壁画に塑像・彫像、記念碑等25点が現存する。工事にあたってこれら記念作品の取扱いが注目されたが、同競技場の管理を行う独立行政法人 日本スポーツ振興センターは7月1日、全25作品を保存する方針を発表した。
日本スポーツ振興センター(理事長・河野一郎/以下JSC)の発表によると、国立競技場(正式名称:国立霞ヶ丘陸上競技場)に現存する記念作品等は、6月10日に実施された美術やスポーツなど各分野の有識者による保存等検討委員会において「1964年東京オリンピックの歴史を記憶に留めるものであり、スポーツ文化の精神を体現する芸術品及び記念品として貴重なもの」として保存が決定された。同委員会は昨年の8月より開催され、当初より全作品の保存を前提に、その実施策の検討を重ねてきた。
1958年3月に竣工した同競技場には、同年から64年のオリンピックにかけて、壁画や塑像・彫像などの記念作品が寄贈・設置された。代表的なものとしては、日本画家として活動しつつも宗教画制作に取組み、数多くの壁画を制作した長谷川路可(1897~1967)が、力と美の象徴を表した「野見宿禰像」、「勝利の女神像」がよく知られている。その他の壁画では、昭和を代表する洋画家の一人である宮本三郎(1905~1974)や脇田和(1908~2005)らによる力強さと色彩に溢れた作品の数々が制作され、競技場各所に設置された。
また、塑像・彫刻では、北村西望(1884~1987)「健康美」、朝倉文夫(1883~1964)「青年像」、雨宮治朗(1889~1970)「槍投げ像」など、スポーツの祭典を彩る華やかな7作品が現存する。同競技場は6月で営業を終了しており、現在は敷地内に入り作品を間近にすることは叶わないが、営業終了前に実施されたJSC主催のスタジアム見学ツアーには1万人以上が訪れた。
記念作品等の取り外し及び移設工事については、7月29日に開札が行われ業者が決定している。詳細はJSC公式ウェブサイト(http://www.jpnsport.go.jp/)。移設先に関しては、国立代々木競技場やナショナルトレーニングセンター(アスリートビレッジ)、秩父宮記念スポーツ博物館仮保管倉庫などJSCが所有する敷地に仮設置及び一時的に保存し、作品の状態を踏まえ、最終保存場所(今後検討される)に移される。既に「出陣学徒の碑」は、新国立競技所敷地内へ移設することが決まっており、聖火台、東京オリンピック大会優勝者銘盤、「野見宿禰像」、「勝利の女神像」は、競技場に隣接し改築を予定している秩父宮記念スポーツ博物館が保存することになっている。設置場所からの切り出しが必要であり、損壊の危険性から工事自体に反対する声が出るなど、難航が予想された壁画作品についても無事に業者が決定し、10月末までの工期で移設作業が進められる見込み。
その他の主な記念作品等
【関連リンク】 独立行政法人 日本スポーツ振興センター