監修者にアーティスト・日比野克彦氏、「アール・ブリュット」を問う
日本財団が支援する4つのアール・ブリュット美術館「みずのき美術館」(京都府)、「鞆の津ミュージアム」(広島県)、「はじまりの美術館」(福島県)、「藁工ミュージアム」(高知県)。その4館が監修者にアーティスト・日比野克彦氏(東京藝術大学教授)を迎え、初の合同企画展「TURN/陸から海へ(ひとがはじめからもっている力)」を開催する。8月28日、展覧会に先立って東京・赤坂の同財団にてキックオフフォーラムが行われた。
フォーラムではまず同財団会長・笹川陽平氏が挨拶。昨今「アール・ブリュット」という名称が一般的になってきたことについて「障害者が描いたから素晴らしい作品だというのは間違い。素晴らしい作品を描いたのがたまたま障害者であった、というのが正しい。我々が勝手に障害者と健常者という仕切りを付けている。近代化の中で様々な区別が形成されてきたが、未来のコミュニティーとはインクルーシヴなものである」と言及。
また同財団が支援するアール・ブリュット美術館について「日本には美術館が多くあるが、そのほとんどが機能してない。また全国には町並み保存地区が沢山あるが、文化庁は(人目に触れる)外壁の修復にしか補助を出さない。そこでそれを上手く活用し、多くの人々が立ち寄る場所にしようというのが始まり。障害を持った人々の雇用にもつながる。今後全国的に100~200カ所造りたい」と抱負を述べた。
新しい世界の可能性を問い直す
今展のタイトルは「アール・ブリュットとは何か」ということをより普遍的に昇華させるために日比野氏が掲げたもの。「陸」という日常から「海」へと潜るようなまなざしを示し、新しい世界の可能性を問い直すことを意味している。またこれに付随し、みずのき美術館キュレーターの奥山理子氏は「障害と芸術表現に対するこれまでの画一的な語られ方や、受容のされ方からよりしなやかで豊かに感受する姿勢へと更新するきっかけを作りたい」と語った。
日比野氏が「これほど慎重かつ大胆に、時間をかけて準備を重ねる展覧会は経験したことがない」という今展。「新しい領域に新しい考え方をもって切り込み、後に社会の中で重要なキーワードになりうる展覧会にしていかなくてはいけないという使命感を持っている」と力強い言葉が印象的だ。開催に際して日比野氏は「まずアール・ブリュットを生み出す人たちと接したい」という考えから、自身が4館の運営母体となる障害者支援施設でショートステイを体験。そこでの思考の軌跡が展覧会の展示作品の軸に据えられる。フォーラムでは既に終えた2カ所での入所体験を報告。「多様な人々が共存できるような社会作りを考えると、絵を描き、モノを創る人間にとってアール・ブリュットの作家が生活している空間に入ることは有効なことだと思う」と括った。
多彩な出品作家に加え各館の独自企画も
今展の出品作家は各館キュレーターが選んだ約30名。TURNについて思考し制作された日比野氏の作品を軸に、幅広い作家を展覧する。作家は次の通り。
クマムシ/Chim↑Pom/サエボーグ/八島孝一/上里浩也/今村花子/平岡伸太/岩谷圭介/畑中亜未/岡本太郎/小林竜司/中原浩大/田中偉一郎/淺井裕介/工藤トミエ/北川義隆/日比野克彦/戸來貴規/佐藤初女/野田秀樹/猪熊弦一郎/島袋道浩/高橋重美/長田身延+長田純子+山中雅史 ほか
また各館では独自の特性を活かした自主プログラムも展開。最初の開催館となるみずのき美術館では「かがやきフォーラム」を実施。また出品作家でもある田中偉一郎を招へいし、ショートステイなどを予定している。鞆の津ミュージアムは会田誠や宇川直宏、エリイ(Chim↑Pom)、坂口恭平などを招き、トークイベントを行うことになっている。(取材/橋爪勇介)
【会期・会場】
11月8日(土)~2015年1月12日(月・祝) みずのき美術館
1月31日(土)~3月29日(日) 鞆の津ミュージアム
4月18日(土)~6月28日(日) はじまりの美術館
7月18日(土)~9月23日(水・祝) 藁工ミュージアム
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