【インタビュー】第68回二紀展 ―山本貞氏に聞く

2014年10月14日 09:30 カテゴリ:二紀会

 

宮本三郎や田村孝之介らが創立し、今年で第68回展を迎える公募美術展「二紀展」。新人の発掘や育成に定評のある同展の運営について、理事長をつとめる洋画家の山本貞氏に、その精神から実践からまで話を聞いた。

 

 

―国立新美術館が会場になって、8年目となります。新人室(第一室)など、新しい試みも定着してきました。

 

山本貞氏(以下、山本) 国立新美術館に入ることで展示面積は約1.3倍に広がりました。その中で、二紀会自身もリニューアルをしていくと、会の中で意志の統一ができたのです。移動壁によって展示室をいかようにも構成できることから、入口では特におもしろい作品を見せようと考えました。そこでは、二紀会内部の評価だけではなく、外部での活躍も重視し、人選の条件としています。日動画廊の昭和会展や各地のコンクールなどで評価されれば、たとえ初入選でも第一室での展示の可能性はあります。

 

(左)山本貞「桜咲く日」
(右)山本文彦「地異Ⅲ」

 

―とくに力量の高い新人を、一目でわかる魅力がありますね。

 

山本 鑑賞者には好評のようです。しかし、メンバーが固定してはいけません。新しい才能の発見と成長を見極めて、会の「看板」として打ち出す作家と新メンバーを常に考えます。二紀会は公募美術団体ですから、出品を続ける中で会員や審査員に近づいていきます。その新陳代謝の「通り道」として、第一室は機能し始めていますね。

 

―若い作家をいかに引き入れていくかは、運営面において非常に重要な問題です。

 

山本 若い作家は、せっかく二紀展に出品しても、なじむ前にやめてしまうことがありました。仲間ができないということです。かつては展覧会初日のパーティーでも、支部ごとに固まってしまっていた。二紀会は全国に37支部があり、それぞれの結束が強い。そこに、若い人同士の世代的な横のつながりを作ろうとしました。先輩たちが仲人役のようになり、「彼(女)は○○支部の○○です」と、紹介していく。すると、若者同士は話があうから、どんどん仲間になっていく。人間関係から、会に親しむというバックヤードが必要なのです。

 

(左)藪野健「思えばここに立つ日、全てが始まる」
(右)南口清二「停車場」

 

―長年出品している作家とのバランスも難しいのではないでしょうか。

 

山本 そういった方たちにも、非常に神経を使っています。会が若い人たちばかりへ移行していき、居心地の悪いものにならないよう努めなければなりません。

 

―二紀会全体を細やかに見ていらっしゃいますね。

 

山本 これは僕自身の趣味みたいなものでね。美術団体は和やかにずっと、その人間関係が続くという良さがあります。瀧悌三さんはそれを「人生の友達」と言っていたけれど、生涯に渡る知人ができる。また、二段掛けの上段に飾られていたような作家が、ぱっと外で評価を受けたりすると、うれしい気持ちになります。教育機関というと語弊があるけれど、美術団体には家族主義的なところもあります。教師が一方的に教えるのではなくて、ともに飯を食いながら、「こうやったらいいんじゃないか」と語りあう。向田邦子のドラマのような中から、若い人の元気が出てくることもある。

 

(左)日原公大「雲を掴む様な話より 天翔女あるいは流離いの女神」
(右)玉川信一「殯の庭」

 

―力のある若い作家は、どのように探すのでしょうか。

 

山本 二紀展会場では、ひとりで展示作品などを見てメモを作ります。また、大学での講演を頼まれたり、卒展を見る機会にも、おもしろい作家を探す。それとともに、各支部と大学や画塾で教える二紀会の作家には、若い人へ出品を勧めるように言っています。二紀展は「地方」というものがひとつの売りです。地方でおもしろい奴を、どんどん引き上げていこうと考えている。

 

二紀会のひとつの習慣として、委員たちは地方の研究会へ指導に行きます。そのあとで、レポートを作ってもらう。たとえば、どんなおもしろい作家がいたかと。それを会合でピックアップして、近年の二紀展作品集をめくりながら頭の中に入れていく。その蓄積が、第一室の候補になります。審査当日に決めるという作品もあるけれど、一年を通して見ていくという意識が、審査員の中にはあります。

 

―そういった層の厚さが、選抜展である「われらの地平線」(日本橋三越本店ほか)などでも顕著ですね。

 

山本 かつて、松坂屋で開催していた受賞作家展を発展させたのが「われらの地平線」です。若い作家の目新しさも好評です。それは、二紀展の若い出品者が約200人いて、そこから引っ張り上げている点が大きい。「われらの地平線」に出品したいという若者も現れてきています。

 

―世代、地域性をこえた人選になっています。

 

山本 地方から出品するのは、作品の搬送から移動手段までお金がかかります。会としてどこまで面倒を見ることができるのか。大切な問題です。もうひとつ、新人の定着率をいかに上げていくかという問題もあります。たとえば男の子では、「団体展に出してるのか」と同世代に言われるらしい。その言葉が迷わせてしまう。なんでもかんでも団体展に出せとは言わないけれど、もしも合理的な根拠がなく迷うのならば、もう少し考えがまとまるまで出品したらと言ったこともあります。

 

(左)滝純一「離騒」
(右)遠藤彰子「燃ゆる火中花触れあう」

 

―再来年には70回の記念展も迎えます。これからの二紀展について、お聞かせください。

 

山本 「真面目に」という言い方はよくないかもしれませんが、ひとつには団体として真面目に具象絵画の可能性を探っていきたいと思います。美術団体は良いところだと言い切ってしまうことはできないし、悪いところもいっぱいある。「なじみ」空間なのですね。だからこそ、仲間と顔なじみになった幸福感を享受しながら、もう少し耐えてみるという二律背反を共存させて切磋琢磨できれば、団体展の中でこその良い仕事ができるのだと思います。

 

 

第68回二紀展

【会期】10月15日(水)~27日(月)

【会場】国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2) TEL 03-5777-8600

【休館】10月21日(火)

【料金】一般700円 大学生以下無料

 

「新美術新聞」2014年10月11日号(第1357号)1・2面より

 


関連記事

その他の記事