舞台は近未来の日本
複雑に変化するリズム、不協和音を駆使し、西洋音楽の伝統を打破したストラヴィンスキーの傑作バレエ音楽『春の祭典』。その独創性、エキゾチシズムは、バレエ・リュスでの初演を担ったニジンスキーをはじめ、モーリス・ベジャール、ピナ・バウシュら、名だたる振付家の創作意欲を刺激し続けている。
今回新たにこの作品に挑むのは、躍動感とユーモアあふれる作品づくりで定評のある振付家・白神ももこ、廃材や機械部品を素材にオーガニックな空間を演出する美術家・毛利悠子、人間の声や呼吸を生かした「生」の音を追求する音楽家・宮内康乃の3人。プリミティブな「祝祭」「生贄」の物語は、近未来の日本を舞台に「再生」のイメージも加えた新版として私たちの眼前に現れる。なお本公演ではホワイエにて毛利悠子《アーバン・マイニング》の展示も行われる。
■毛利悠子インタビュー(2014年6月掲載)より抜粋
「春の祭典」はシャンゼリゼ劇場の杮落とし公演として1913年に初演され、毀誉褒貶のセンセーションを引き起こした問題作だと言われていますね。「春の祭典」で踊られるのは異民族のダンスとされていますが、バレエ・リュス(ロシアバレエ団)を率いていたディアギレフの思惑のひとつは、ヨーロッパ化して洗練した帝政ロシアの文化が隠していた「土着のロシア文化」を、きらびやかな文化の都パリに投げ込むことにあったわけです。
じゃあ、なぜ今、この演目を日本人がやるのか。現代という時代背景を考えてみたとき、東日本大震災のことが自然と頭に浮かびました。これまで白神さんも私も、東日本大震災を直接テーマにした作品を制作したことはなかったのですが、では一度ちゃんとリサーチしようということで、被災地に足を運んだりもしました。
個人的には、さらに「都市鉱山」というテーマを取り入れたいんです。震災後、生活が一変してしまった感は否めないし、絶望的な気持ちになっていたのですが、そんな時にたまたま「都市鉱山」の話を知って、珍しく希望が持てた。それでなんとなく東京のゴミを見に行ったら、夢の島がものすごい施設になっていて。なんというか、まるで豊かな大地に見えた(笑) 燃えかすを歩道用ブロックに再利用して出荷したり、燃えないごみから年間6億円分くらいのメタルが取れたりするのですが、これはもはや欠かせないインフラだな、と感じました。いったんは自らの役割を果たしたゴミたちがもう一度資源になっていく――そういえばこれ、私も同じようなことを考えてたなーって。やがてそれは《アーバン・マイニング》という作品にも繋がっていくのですが。
ただ、一筋縄にいかないのが原発問題です。放射性物質を多量に含んだ汚泥の行き先もやはり清掃工場だから、東京で最も汚染濃度が高い場所になってしまった。以前は小学校の社会科見学でよく使われていたけれど、原発事故以降は保護者から反対の声もあって見学者が激減しているんだそうです。そういう現状もありつつ、夢の島は2020年東京オリンピックの会場予定地でもある。つまり、人が寄りつかなくなったところにまた人が集まるという…恐ろしくもあるけどそれが現実だし、そういうことを作品として表現できないかな、と。
時間も限られているので、できる範囲でではありますが、そういった「土着的要素」を今回の「春の祭典」に盛り込みたいですね。
せっかくの舞台だから表層的なことをやっても仕方ないし、ヨーロッパやロシアの文脈とも違うことを意識したい。「春の祭典」がどういうものだったのかを歴史的背景から汲み取ったうえで何ができるのかを丁寧に考えたいですし、そこを初期の段階から白神さんと取材し、確認できたのはよかったです。
「春の祭典」
【会期】11月12日(水)~16日(日)
【会場】東京芸術劇場 プレイハウス(東京都豊島区西池袋1-8-1)
【上演時間】11月12日~14日=19:30開演、15日(※)・16日=15:00開演(開場は開演1時間前)
※3名によるポスト・パフォーマンストークあり
【料金】一般前売3500円(当日+500円) ※全席指定
【チケット購入】F/Tチケットセンター(TEL 03-5961-5209)、東京芸術劇場ボックスオフィス、チケットぴあ[Pコード:560-978]、カンフェティ
【関連リンク】フェスティバル/トーキョー 14
■出演
伊東歌織、北川 結、ド・ランクザン望、乗松 薫、花田雅美、浜田亜衣、原 千夏、船津健太、細谷貴宏、政岡由衣子、三浦健太朗、つむぎね(ArisA、浦畠晶子、大島菜央、筒井史緒、森戸麻里未)