「FORCE」―常に感じ続けている力
韓国天安市の大型パブリック彫刻《Manifold》(2013年)や岡山県犬島の家プロジェクト: F邸《Biota(Fauna/Flora)》(2013年)、自身がディレクションするSANDWICHによるコンセプトストア、NEMIKA (広尾店)の空間デザイン(2014年)など、国内外でのプロジェクトを次々に展開する名和晃平(1975年大阪府生まれ)がシリコーンオイルと重力の関係性によって生まれるインスタレーション《Force》(2015年)、および平面作品シリーズ”Direction”(2011年~)、”Moment”(2014年~)などの新作を発表。名和にとってSCAI THE BATHHOSEでは5年ぶり、3度目の個展となる。
「Force」と題された今展は、質的に計算された液体と重力の関係性によって展開。インスタレーション作品《Force》(2015年)では、黒いオイルの筋が雨のように天地垂直に流れ、床面に溜まって所々に黒い池を形成する。動粘度を調整されたシリコーンオイルは、液状化した彫刻のように固体と液体の特性を曖昧にしながら、一定方向に高速で流れ続ける。綿密な構成意図にしたがって成り立つ空間彫刻は、時間・空間・物質のはざまに鑑賞者の視点が置かれ、アクチュアルな瞬間の連続のなかに鑑賞者がいる現実を直感させる。
名和はこれまでも湧き上がる気泡(“LIQUID” 2003年~)や際限なく生成し続ける泡沫(《Foam》2013年)など、原初的な現象を現代の化学素材で再生してきた。ホワイトキューブに流れ続ける線状の黒いオイルはこうした試みを継承しながら、熱可塑性の素材で造形する”GLUE”(2000年)、液体のもつ特性と重力で描いた”Direction”や”Moment”に繋がる新たな彫刻のコンセプトを指し示すものだ。
垂直に張ったキャンバスの上端から顔料を滴らせてできる平面作品”Direction”は、2011年から続くシリーズ。バイナリーコードのようなモノクロームの反復は、顔料がひとつの方向に向かう運動の痕跡であり、強いコントラストをもつ自律的な階調を刻んでいる。また”Moment”(2014 年~)は、精密にチューニングした顔料が入ったタンクの振り子装置によって、ノズルから出たインクの軌跡が円心運動の錯綜を描くもの。ある点からある点へ顔料が移動するときに曲線や渦線がうまれ、タンク内の空気圧、ノズルの太さなど物理的な条件によって多様に変化。作品制作は徹底した素材のコントロールと運動計算によって統制されている一方で、画布を動かし恣意的な介入を瞬間的に加えることで局所的なカオスと変調を生む。重力の影響で円心の運動(力のモーメント)が弱まると、線は点に近づき支点の中心へと収縮していく。このような作用は、空間に垂直にたとうとする私たちの身体が、常に感じ続けている力(Force)でもある。
【会期】2015年3月7日(土)~4月18日(土)
【会場】SCAI THE BATHHOUSE(東京都台東区谷中6-1-23 柏湯跡) TEL 03-3821-1144
【休廊】日・月曜 ※3月21日(土・祝)は開廊
【開廊】12:00~18:00
【料金】無料
【関連リンク】SCAI THE BATHHOUSE