アジア圏初の一挙公開
20世紀を代表する画家の一人、バーネット・ニューマン(1905~70)は、アメリカ抽象表現主義の中核的存在として、ジャクソン・ポロック、マーク・ロスコらと並び称されている。ニューマンは芸術の本質を、表面の技工にではなく、その内なるものに求め続けた。さらに、神話を欠いた現代社会において、いかに崇高な芸術を創造していけるのかという課題に、真正面から挑み続けた画家である。
8年の歳月を費やして描き上げた代表作《十字架の道行き》14点、および《存在せよ II》の連作全15点は、まさにその結晶と呼ぶべき傑作である。「十字架の道行き」とは、本来イエス・キリストの受難を、死の宣告や磔刑など14の場面であらわすキリスト教芸術の伝統的な主題である。しかしこの連作は、そのような逸話を描いたものではない。ニューマンの真のテーマは、その副題“レマ・サバクタニ”― 十字架の上でイエス・キリストが叫んだとされる言葉「なんぞ我を見捨てたもう」 ― に隠されている。それは、時代も宗教も人種も越えた根源的な問いへの挑戦とも言える。
本展覧会では、このワシントン・ナショナル・ギャラリーの至宝15点を、アジア圏で初めて一挙公開する。同館とMIHO MUSEUMの設計者が共に世界的建築家I.M.ペイ氏であることから、奇跡的に実現した企画である。またニューマンが高い評価を受ける契機となった1966年ニューヨーク・グッゲンハイム美術館における「十字架の道行き」展から、半世紀を経てのリバイバル展となる。
古代の聖なる美術品を擁するMIHO MUSEUMでの展示は、優れた芸術のみが持ちうる時代や文化を超えた崇高な精神性が響き合い、この傑作と対峙する千載一遇の機会となる。一見無機的なデザインにさえ見えるこれら15枚のキャンバスの前に立つとき、全く予想外の体験が待っていることだろう。
( MIHO MUSEUM学芸員)
【会期】2015年3月14日(土)~6月7日(日)
【会場】MIHO MUSEUM(滋賀県甲賀市信楽町田代桃谷300) TEL 0748-82-3411
【休館】月曜・5月7日、5月4日開館
【料金】一般1,100円 高校・大学生800円 小・中学生300円
【関連リンク】MIHO MUSEUM
■講演会
いずれも会場は南レクチャーホール。当日先着100名、美術館棟受付にて整理券配布。
①「出来事の詩学」
【日時】3月21日(土) 14:00~
【講師】三松幸雄(明治大学・多摩美術大学 専任講師)
②「バーネット・ニューマンの〈十字架の道行き〉」(仮題)
【日時】4月25日(土) 14:00~
【講師】大島徹也(今展ゲストキュレーター、愛知県美術館 主任学芸員)
■同時開催
「曽我蕭白『富士三保図屏風』と日本美術の愉悦」