若手画家の創作活動を応援し、具象絵画の可能性を開くことを目的にした第7回絹谷幸二賞の贈呈式が16日、東京・千代田区の学士会館で執り行われた。
今回の受賞者は絹谷幸二賞が谷原菜摘子氏(1989年埼玉県生まれ、京都市立芸術大学大学院絵画専攻油画在籍)、奨励賞が先の第18回岡本太郎現代芸術賞で岡本敏子賞を受賞した久松知子氏(1991年三重県生まれ、東北芸術工科大学大学院修士課程芸術文化専攻日本画領域在籍)の2氏。贈呈式では選考委員の山下裕二氏が講評を行い、谷原氏については「審査の時まで作品を見たことがなかったが、一次審査の時からただならぬオーラを感じていた。実作品を拝見したら、最初に感じたオーラがますます強く感じられ、賞の候補だなと強く思った」と述べた。
賞の審査以前から作品を見ていたという久松氏に関しては「今までありそうでなかった『美術史そのものを絵画化する』という作品。岡倉天心、横山大観など明治以来の人物が描かれており、実にユニークな作品に驚嘆したのを覚えている」と語り、今回の2氏の受賞について「内面から滲み出る情念を絵画化した谷原さんと、クールなコンセプトを持った久松さんという全く方向性の違う作品を選ぶことができたのは喜ばしい」と括った。また同賞の発起人である絹谷幸二氏は祝辞を述べながらも「賞をもらって安心してはいけない。次の段階を目指して頑張ってほしい」と受賞者にエールを送った。
■谷原菜摘子氏コメント
私は自分が毎晩見る悪夢から着想を得て作品をつくっています。夢のエッセンスと人間の業を画面上で再構築し、美しいものに昇華させようとしています。夢から始まる私の制作において、夢は一番大事なものです。夢は私の体験から構成されています。私は物心ついたときから特に意味もなく、自分以外の人間に対して恐怖や憎しみを感じていました。心を許せる人間はほとんど周りにおらず、いつも1人絵ばかり描いていた暗い子どもでした。人間とは恐ろしいものだという自分の考えが正しいことを証明するために、人間の残酷な振る舞い、戦争や凄惨な事件が書かれた本を毎日のように読み漁り、その情景を想像し、1人で震えていました。そういったおかしな子どもは当然のように周りの人間からひどく迫害されました。その時から私は人間の業というものに強い関心があったように思います。
しかし人間が恐ろしいと思う一方で、私が心から感動し素晴らしいと思うものは、(私が)怖いと思う人間に作られたものでした。母の着物やジュエリーなど過剰に華やかで煌びやかなものに心惹かれていました。美しいものを誰にも渡さず、全て自分の手に入れたいと願っていました。個人的な負の記憶、人間の業といった残酷でどろどろしたもの。煌びやかな造形物という両極にあるものに私は強く惹かれます。この2つは物心ついたときから私の心に同居し、今も残り火のように私の心でくすぶっています。この火は今後も私の中から消えることはないでしょう。これらが私の絵の根底にあるものであり、作品の根幹を成すものです。この2つを描くとき、私は最上の幸福を感じ、自分の生をこの手に実感することができるのです。今回思いがけない大きい賞を受賞したことは、今後作家人生の中で大きな支えとなりました。
■久松知子氏コメント
今回受賞させていただいた《日本の美術を埋葬する》という作品ですが、私は今日その絵の中と同じ服装で来ました。作品の中で描かれている私の姿について少し触れますと、絵の中で美術の偉大な人たちは大きな人として描かれているし、彼らは実際とても大きな人たちです。そして私は小さい人間として描いています。美術の世界の中で、無名の小さな子どもの美大生の絵描きという意味で私の姿を描きました。今回このような大きな賞をいただいて、小さな存在として描いたけれども、(受賞を)次のステップへの始まりにしていきたいと思います。
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