【美術館】 国立西洋美術館に「橋本コレクション」の指輪類805点一括寄贈へ

2012年08月28日 17:54 カテゴリ:最新のニュース

 

創設時「松方コレクション」以来のまとまった収集品

 

古代の王侯貴族、中世の商人・騎士さらに現代の淑女たちが身に着けた指輪(RINGS)は、その時代の地域の文化を物語る貴重な文化遺産だ。個人コレクター橋本貫志氏の指輪コレクション805点が、このほど国立西洋美術館(東京・上野、青柳正規館長)に寄贈される方向である。まとまった点数としての一括収蔵は、同美術館が創設された当初の松方コレクション以来の規模。同館では数年以内に準備を整えて一般公開していきたいとしている。

 

橋本氏は1924年東京生まれ。古美術鑑賞家。元実業家。東京美術学校(現東京藝術大学)油絵科卒業。日本、東洋、ヨーロッパの古美術品を収集し、これまでにもコレクションを東京国立博物館、東京藝術大学などに寄贈し、コレクターとして知られている。

 

今回、国立西洋美術館に一括寄贈される経緯とその内容を同美術館に聞いた。担当の大屋美那・同館主任研究員によると「寄贈のお話は当館の青柳館長のところに1年ほど前に戴きました。指輪のコレクションは、橋本さんが1980年代末から2002年にかけてオークションにご自身で参加して集められたものです。寄贈を受けた点数は全部で805点、そのうちリング(RINGS)は720点ほどです。指輪以外のものはオークションでセットとして指輪と一緒に落札されたネックレスや腕輪、スカラベ(コガネムシの形をした装飾品で古代エジプトの護符の類)、コインなどです」と説明した。

 

これまでにも同美術館には20世紀美術のまとまった作品からなる山村コレクションの寄贈、梅原龍三郎によるルノワール作品などの寄贈例がある。

 

この橋本コレクションの特長は何なのか。大屋主任研究員は「指輪だけのまとまったコレクションとしても珍しいですが、時代的にも地域的にも広く集められ、歴史を編むように構成されている点だと思います。国立西洋美術館のコレクションは元々中世から20世紀初頭までの絵画や版画、彫刻が主体でしたが、このコレクションにはこれまで携わってこなかった古代や現代の作品が含まれています。また地域的にも西アジアから日本、中国の作品も一部含まれている点で、これまでの国立西洋美術館のコレクションとは異なっています。もちろん
装飾美術という点でも、当館がこれまでコレクションしてこなかった新たな分野です。このように“時代と地域と分野”3点について、当館として新たな道に一歩踏み込むことになったともいえます」と説明する。

 

さらに「今回、寄贈していただくものはアンティーク・ジュエリーといわれる分野の作品としてとらえられ、ファッション的な豪華さを競うものではなく、むしろひとつひとつの指輪に歴史的な意味を読み込んでいくものです。当時のヨーロッパ文化を色濃く映し出した美術品としての宝飾品ということだと思います。橋本さんも言われていますが、指輪は古代から現代まで途切れることなく人間が身に着けてきたもので、そこには個人的、社会的に様々な意味が込められています。当館がこれまで収集、展示してきた絵画や彫刻にも絡めて見ていくことがで
きる、たいへんユニークなコレクションです。中にはドイツの画家メングスが描いた自画像をミニアチュールにしている興味深い指輪もあります。この指輪の来歴には、ラファエル前派の画家ウィリアム・ホルマン・ハントの名前もあり、絵画との関わりも伺える例です。装飾美術史上重要なアール・ヌーヴォー、アール・デコの流れのなかで制作された指輪などもあります」と大屋氏は解説する。

 

国内外では宝飾品専門の美術館がいくつかあり、また海外ではヴィクトリア・アンド・アルバート美術館やルーヴル美術館、大英博物館、メトロポリタン美術館等の大美術館にもジュエリーの優れたコレクションがあるが、日本の国公立美術館としては初めてのまとまったコレクション。多くの美術ファンが関心をもつところだろう。過去に橋本コレクションの一部が展覧会で紹介されたことはあるが、その全容はまだ公開されたことはない。
 

今後の活用、公開などの予定はどうなのだろうか。同美術館では、まずは保管、管理体制を整え、ウェブサイト上での公開も含め、展覧会としても2~3年のうちにはまとまった形で紹介したい、としている。

 

「新美術新聞」2012年8月21日号(第1288号)3面より

 


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