アート・ドキュメンテーション学会(会長・前田富士男)が主催する、「野上紘子記念アート・ドキュメンテーション学会賞・推進賞」。第9回の学会賞は金子貴昭氏に、推進賞は松岡資明氏にそれぞれ決定し、授賞式が6月6日(土)に国立西洋美術館講堂で行われた。
本賞は、同学会の会員であった故・野上紘子の遺族からの寄付金を元に2007年に創設。美術古書店リブロダールを経営するとともに、学会の発足時から参加しつづけた野上の遺志を生かし、アート・ドキュメンテーションに関する優れた研究および実践について顕彰することを目的としている。学会賞は、『アート・ドキュメンテーション研究』、『アート・ドキュメンテーション通信』、その他の雑誌で過去3年間に発表された論文・記事、図書、データベース、展覧会、ウェブサイトの中から優れた業績に対して贈られる。推進賞は、アート・ドキュメンテーション関係業務の現場において、効果的かつオリジナリティを発揮した者あるいは機関を対象とする。学会賞・推進賞ともに、対象者は同学会の会員に限らない。
■学会賞:金子貴昭氏
『近世出版の板木研究』(2013年4月、法蔵館)及び「板木閲覧システム」に対して
金子氏は1976年広島県生まれ。日本において伝統的な出版を支えた「板木」の研究利用を可能とした。木版印刷に用いられた板木は、重さや墨の汚れによりドキュメンテーション自体が困難であるため、これまでほとんど研究対象とされることがなかった。金子氏はその板木をデジタル・アーカイブ化し、さらに「資料としての板木」の性格を明らかにした。また研究の素材となった膨大な江戸時代の板木を、精細な画像情報やメタデータとともに「板木閲覧システム」としてウェブ上で公開している。
■推進賞:松岡資明氏
「ジャーナリストとして、アーカイブズの意義と重要性について社会の関心を喚起し、制度の改革に寄与した報道及び著述活動」に対して
松岡氏は1950年栃木県生まれ。73年から本年の3月まで日本経済新聞社文化部に勤務する中で、アーカイブズについての調査研究を深め、その保存や管理の重要性を各種媒体で訴え続けてきた。2002年12月17日付『日本経済新聞』「文化往来」欄で掲載した記事は、福田康夫元首相(当時官房長官)の目に留まり、その後の「公文書管理法」制定のきっかけとなった。2010年に『日本の公文書─開かれたアーカイブズが社会システムを支える』(ポット出版)、その翌年には『アーカイブズが社会を変える-公文書管理法と情報革命』(平凡社新書)を公刊している。
写真は全てアート・ドキュメンテーション学会提供(撮影:當山日出夫)。
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