2020年までに100件程度を認定へ
文化庁が今年度より新たに創設した「日本遺産」の認定証交付式とパネルディスカッションが6月29日、東京国立博物館平成館で開催された。
「日本遺産」は地域の歴史的魅力や特色を通じて日本の文化・伝統を語るストーリーを認定するもので、初年度となる今回は18件が認定、認定証交付式では各自治体の代表者が出席し、下村博文文部科学大臣より認定証をが授与された。
大臣は認定式で「2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催され、多くの外国人旅行者が日本を訪れる。2020年の先には年間3000万人が訪れる世界に誇る魅力ある国づくりを目指している」とし、「日本遺産」を「全国に東京大会の開催効果を波及させ、大会後も地域が力強く発展するためのレガシーを生み出すための取り組みを牽引する役割」と言及。今後は2020年までに100件程度を認定し、日本文化の魅力を国内外に積極的に発信するとし、「日本遺産」を「文化財版クールジャパン戦略」と位置づけた。
交付式後に行われたパネルディスカッションでは今回の認定に携わった5名の審査員(稲葉信子筑波大学大学院教授、漫画家・里中満智子、下村彰男東京大学大学院教授、丁野朗日本観光振興協会常務理事、デービッド・アトキンソン小西美術工藝社社長)と青柳正規文化庁長官が登壇。
冒頭、青柳長官は「歴史と物語は常に一体化している。文化財は点だけでは記憶に残らず、これまではその活用を怠っていた」とし、「日本遺産」制度によって物語の面白さを伝える必要性を主張。
また小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏は独自の視点で日本の観光事情を分析。「(観光の分析をやってみたが)本来であれば5600万人の外国人観光客が来ているはずだが、実際は1300万人にとどまっている。これは全世界の観光客の0.9%。欧州などを見ると自国民の4~5割が来ているのが普通だが、日本では1割にも満たない。世界の競争に入っていない。その競争に入るためには多面的に自国をアピールする必要がある」と強調。海外観光客は日本文化を分かろうとするボランティアではなく「楽しみに来ている」のであり、お金を落としてもらわないと意味がないとし、「日本遺産」制度によるストーリー整備が必要だと強調した。
シンポの終盤では青柳長官が文化政策の重要性を「日本はこれから2030年にかけ1000万人以上の人口とそれに伴いGDPが減っていく。その中でどれだけの付加価値を生み出していくか。もはや文化で生きるしかない。その最先端を「日本遺産」認定の地域に走ってもらいたい」とし、新たな制度の今後に向けた発展に期待を寄せた。