情報共有のネットワーク化めざす 全国から660館が会員参加
東日本大震災から約1年半。東北沿岸地域などでは多くの博物館・文化財が被災した。そこで浮かび上がった問題を契機に今年6月、「全国歴史民俗系博物館協議会」(略称・歴民協)が立ち上げられた。国立歴史民俗博物館(歴博、千葉県佐倉市)や江戸東京博物館、九州国立博物館など13館を幹事館に、現在全国から660もの博物館が参加した。「歴民協」立ち上げの設立に当初から関わる平川南・歴博館長にその経緯、趣旨、今後の展望をお聞きした。
「歴民協」の設立集会は今年6月14日、第1回総会・研究集会をかねて江戸東京博物館ホールで開かれた。
13館長の発起人を代表して平川氏が趣旨説明し、「歴史・文化資料のレスキュー活動で浮かび上がった問題は、日本博物館協会の美術系、科学系、動物園・水族館などの館がそれぞれ館種別組織を持っているのに対して、歴史民俗系だけが全国的組織がないことでした。美術系は全国美術館会議をもち、動物園・水族館は日本動物園水族館協会を持っています。震災後そして復興に際して全美、動水協の全国的支援体制は見事でした。歴史民俗系博物館は総数3000館という最大の館種でありながら、これまで全国的ネットワークが全く無かったのです。…後略…」と挨拶した。
平川氏を議長とする総会では設立趣意書、規約、幹事館選出、活動計画が審議され、それぞれの案件が賛同承認された。
歴民協は全国を北海道、東北、関東、中部、北陸、近畿、中国・四国、九州、沖縄の9地区ブロックにわけ、それぞれ北海道開拓記念館、東北歴史博物館、江戸東京博物館と国立歴史民俗博物館、名古屋市博物館、石川県立歴史博物館、大阪歴史博物館と兵庫県立歴史博物館、広島県立歴史博物館と香川県立ミュージアム、九州国立博物館と九州歴史資料館、沖縄県立博物館・美術館の13館が2012年度の幹事館となった。初年度の代表幹事館に歴博が互選された。
歴民協では維持会費は徴収しない。基本的経費は一般財団法人歴史民俗博物館振興会(尾崎護代表理事)の歴博への寄付金からまかなう。個々の事業経費は参加者負担。事務局は同振興会の所在する歴博におき、専任の人員を配置することになった。
最初の呼び掛け人のひとり、平川南・歴博館長は協議会設立の経緯について「全国にある博物館は5千を超し、そのうち歴史民俗系が3千館以上で圧倒的に多い。数は多いのですが、規模の大きい所はそれほど無く、小さな町や村にも歴史資料館はあり、地域の歴史・民俗資料などが収集展示されているような小規模の博物館が数多くあります。その桁はずれの多さのため組織化するキッカケが無かった面もありますが、組織旗挙げの直接的な要因は3・11大震災です。美術系や動水協は組織を使ってレスキューにすばやい対応をした。それに比べて歴史民俗系は館種別の全国組織が無く、相互連携による速やかな救援活動が出来ませんでした」と説明する。
また平川氏は、「その対象は実に幅が広い。有形だけでなく無形もある。民俗行事に伴う道具、衣裳、太鼓など無形文化財の中に有形物もある。被災文化財には古文書をはじめ歴史資料、考古資料など様々。文化庁による文化財レスキューも指定文化財からレスキューせざるをえません。沿岸地域の個人規模で運営する各博物館も津波被害の状況が寄せられてもレスキューで立ち遅れました。相互連携のネットワークがあれば適切な方法を情報交換できたのでは、と思います。
今回の震災は1年、2年の問題ではなく5年、10年もっとかかるかもしれない。これからは地震だけでなく広く列島災害に対応する情報共有のネットワーク作りが必要です。都道府県にある文化資料の所在調査も非常に遅れています。 歴史民俗系博物館は美術館以上に地域密着性があります。本来、地域社会で一番大切な歴史・文化を発信する源でなければならない。歴史・文化が地域社会の基盤であることが震災を機に明確になりました。歴史民俗系博物館の原点であり、大きな役割です。それが協議会設立の目的でもあります」と強調した。
平川氏は、今後の運営について9月中旬に開く関東ブロック会で一つの指針を示し、全体の幹事館会に諮り、各地域ブロックの固有のテーマもあり、どんな方式で運営するか、それぞれ一定の方向性を出しながら協議会を軌道に乗せていきたい、とした。
「新美術新聞」2012年9月1日号(第1289号)3面より