[寄稿]開館30周年記念 川村清雄展-古今・東西・混ざり合い-:藤井素彦(新潟市美術館学芸員)

2015年10月30日 09:39 カテゴリ:最新のニュース

 

江戸前の油絵

 

 

昨年来の大規模改修を経て、開館30周年という記念の年を迎えた新潟市美術館では、このたび「川村清雄展 -古今・東西・混ざり合い-」を開催する。新発見・初公開の作品を含む約150点で構成され、当館のみで開催される独自の展覧会である。

 

企画の背景には、清雄の祖父である川村修就(ながたか、1795~1878)という存在があった。晩年の勝海舟が「三河武士の美風を受けた正直なよい侍」と懐かしんだ修就は、新潟が幕府直轄の天領となったとき、初代の新潟奉行をつとめた。豊かな港町のかたちを創り出すことに手腕をふるった能吏であり、当地の偉人として今も親しまれる人物である。

 

つまり清雄は幕臣の子であったが、しかし決して明治維新の「負け組」ではなかった。徳川家の派遣留学生として米・仏・伊を巡歴、その10年で体得した絵画制作技術は、日本近代洋画史上もっとも高い水準を示す。彼の絵肌の深みある色彩、引き込まれるような物質的魅力は、清雄評価の第一のポイントであろう。また、同時に学ばれたアカデミズムの格律に則り、高度な寓意を散りばめた大作を手掛けたことは、「構想画」(高階秀爾)の先駆的な達成として、様々に言及されてきた。

 

こうした受容史上の先駆者としての清雄像の一方、近年は和洋折衷の特異な画風という、清雄の前衛性への注目が高まっている。本展でも、金箔や漆板の上に描かれた作品や、屏風や扁額に仕立てられた作品など、一見すると油絵には見えないような作品を多数紹介する。

 

画家・山口晃は、清雄の折衷性を単純な融合ではなく、和洋の「どちらにも属さない」と喝破した(『ヘンな日本美術史』祥伝社)。そもそも清雄の「和風」が、油彩技法によって「擬態」されたものであることは、幾重にも強調されなくてはなるまい。それは、言葉の真性の意味での「キッチュ」(代替物)なのである。このことは、清雄が大いに意識した柴田是真が、漆芸技法によって油彩画を擬態したことと、奇妙な対照を成しているだろう。異なる素材・技法、あるいは歴史と地理の両軸にわたる交差参照から浮かび上がる、優れてアクチュアルな「日本」像を、川村清雄は示唆しているのだ。

 

 

 

 

【会期】2015年11月3日(火・祝)~12月20日(日) ※11月25日(水)より一部展示替えあり

【会場】新潟市美術館(新潟市中央区西大畑町5191-9)

【TEL】025-223-1622

【休館】月曜 ※11月23日(月・祝)開館、翌24日(火)休館

【開館】9:30~18:00(券売は閉館30分前まで)

【料金】一般1,000円、大学生・高校生800円、中学生以下無料

【関連リンク】新潟市美術館

 

■講演会「川村清雄、人と仕事」

【講師】丹尾安典(早稲田大学文化構想学部教授)

【日時】2015年11月14日(土)14:00~(約90分)

【会場】新潟市美術館 講堂

【料金】無料 ※事前申込不要

 

■講演会「初代新潟奉行・川村修就の治政

【講師】中野三義(新潟奉行川村修就研究家)

【日時】2015年11月22日(日)14:00~(約90分)

【会場】新潟市美術館 講堂

【料金】無料 ※事前申込不要

 

■美術講座「テイスト・オブ・脂(ヤニ)」

【講師】藤井素彦(新潟市美術館学芸員)

【日時】2015年12月19日(土)14:00~(約90分)

【会場】新潟市美術館講堂

【料金】無料 ※事前申込不要

 

■学芸員のギャラリートーク

【日時】11月15日(日)、29日(日)、12月13日(日)各日14:00~

【会場】企画展示室(約30分、要観覧券)

 

 

 


関連記事

その他の記事