東京藝術大学が目指すグローバリズムとは ―保科豊巳 美術学部長に聞く
東京藝術大学美術学部と広州美術学院の教員による共同展「北緯23°/北緯35°」が、10月29日より同大学大学美術館陳列館ほかで開催されている。
同展は、昨年9月22日に締結された芸術国際交流協定に基づくもので、両校80名におよぶ教授陣が出品。日本画や中国画から油画、彫刻、工芸、インスタレーションまで分野横断的な作品展示を通じて、まずは互いの教育研究の全体像を紹介しようという試みである。
広州美術学院は、中国華南地域における唯一の美術大学であり、中央美術学院(北京)や中国美術学院(杭州)とともに「中国八大美術学院」に数えられる同国有数の教育機関。「これまで当校では、北京や上海など中国北部の美術大学と交流を重ねてきましたが、近年は広州や香港など南部にも注目しています」と保科美術学部長は語る。「香港に近いことから、広州には最新の美術動向を知る国際感覚に優れた作家が多い。一方で、日本で美術を学んだ知日家の先生も多く、今回の交流協定締結にあたっても前向きに取り組んでいただきました」。
東京藝術大学は、1989年の中央美術学院との交際交流協定締結を皮切りに、これまで各国の美術大学と交流を重ねてきたが、近年はその動きをより活発化させている。今年度、文部科学省の「スーパーグローバル大学創成事業」に芸術系大学としては唯一採択され、また、来年4月には、世界トップレベルの芸術家の戦略的育成を目指す「グローバルアートプラクティス専攻(修士課程)」を新設。同専攻では、ロンドン芸術大学、パリ国立高等美術学校、シカゴ美術館附属美術大学との国際共同プロジェクトを実施するという。
特に、成長を続けるアジアのアートシーンにおいては、北京や上海、香港、シンガポールなどの中心地に対して、同大学のプレゼンス向上を図っていく必要もある。広州美術大学との交流締結は、同大学にとって重要なものとなるはずだ。「単位認定制度の違いなど大学組織のあり方における課題は未だ多いですが、このような国際交流を通じて相互理解を深め、アジアの芸術の将来を語り合えるような関係になればと考えています」。
10月28日に行われたレセプションには、黎明学院長ら広州美術学院の教授陣、中国大使館の陳諍文化参事官も参加した。黎明学院長は「日本と中国の文化交流には長い歴史があります。かつては中国の文化芸術が日本に影響を与え、近代においては、日本の芸術発展が、中国の芸術改革と発展に大きく関わっています。今回の国際交流協定締結は、両校のみならず両国の文化交流において大きな意味をなすものだと考えています」と挨拶。今後については「教員の相互派遣や交換留学制度を作るなど、両校の交流を深めていきたい」と展望を語った。交流の最初の一歩となるこの展覧会が、実りのある大きな一歩となることを期待したい。
出品作家(略歴、出品作品は同展図録より)
東京藝術大学
宮田亮平 保科豊巳 梅原幸雄 吉村誠司 植田一穂 坂田哲也 三井田盛一郎
齋藤芽生 深井 隆 北郷 悟 原 真一 三田村有純 豊福 誠 上原利丸
長濱雅彦 橋本和幸 押元一敏 北川原 温 ヨコミゾマコト 中山英之 古川 聖
鈴木理策 小沢 剛 本郷 寛 木津文哉 荒井 経 木島隆康 鈴木 篤 辻 賢三
広州美術学院
蔡擁華 蔡遠河 陳朝生 陳海寧 陳宏践 陳克 陳子君 鄧箭今 鄧耀明 範勃
馮峰 顧亦鳴 郭潤文 郭祖昌 韓建宇 何楓 黃啟明 黄一山 黄勇 蒋剣韜
雷夢婷 黎明 李慧豊 李倫 林藍 劉佳婧 劉可 龍虎 羅必武 羅奇 洛鵬
覃大立 秦晋 宋光智 譚文選 王忠勇 翁奮 夏天 肖勇 謝郴安 許敦平
楊得聆 楊小樺 楊小満 仰民 于理 曾曦 占研 張弘 張弦 張彦 鄭星球
【名称】「北緯23°/北緯35°」東京藝術大学美術学部 広州美術学院 教員作品共同展
【会期】2015年10月29日(木)~11月15日(日)
【会場】東京藝術大学大学美術館陳列館、東京藝術大学美術学部絵画棟1Fアートスペース(東京都台東区上野公園12‐8)
【TEL】03-5777-8600(ハローダイヤル)
【休館】会期中無休
【開館】10:00~17:00(入館は16:30まで)
【料金】無料
【関連リンク】東京藝術大学大学美術館