美術評論家の河北倫明・雅枝夫妻が設立した公益信託倫雅美術奨励基金が主催、優れた新鋭の美術評論家、美術史研究家に対する顕彰を行う「倫雅美術奨励賞」の、第27回受賞者が決定した。選考委員は市川政憲(同基金運営委員長・美術評論家)、田中淳(東京文化財研究所副所長)、五十殿利治(美術史学者、筑波大学教授)、菊屋吉生(美術史学者、山口大学教授)の各氏。
今年は、美術史研究部門として「赤瀬川原平の芸術原論展―1960年代から現在まで」の企画及びカタログ中の論文を担当した水沼啓和(千葉市美術館)、岩尾徳信(大分市美術館)、松岡剛(広島市現代美術館)の3氏、美術評論部門として「スサノオの到来―いのち、いかり、いのり」展の企画及びカタログ中の論文を担当した江尻潔氏(足利市立美術館)が受賞。美術評論・美術史研究の各分野で活動する関係者から49件(重複除き40件)の推薦があった。
美術史部門の「赤瀬川原平の芸術原論展―1960年代から現在まで」は、2014年10月より千葉市美術館、大分市美術館、広島市現代美術館を巡回。500点を超える作品・資料を通して赤瀬川原平の50年におよぶ活動を紹介した「壮大かつ緻密」な展覧会で、田中淳委員は「赤瀬川原平という人物の活動を、よくここまで調べ上げ、展覧会に仕上げた」と評価。また、水沼氏、松岡氏による論文について市川委員長は「美術を拠り所にしながらも、赤瀬川源平という一人の人間の活動を通じて、戦後日本社会、あるいは“戦後”という歴史そのものを明らかに問うていくような論考であった」と評した。
美術評論部門の「スサノオの到来―いのち、いかり、いのり」展は、足利市立美術館を皮切りにDIC川村記念美術館、北海道立函館美術館、山寺芭蕉記念館、渋谷区立松濤美術館を巡回(2014年10月~2015年9月)したもので、2014年「美連協大賞」を受賞するなど「いわゆる美術館での展覧会というものを超えた稀有な展覧会」とされた。江尻氏の論文も「3.11の後、美術・芸術というものが問い直されているなかで、ひとつの解を論理的に提示したものであった」と高い評価を受けた。
<美術史研究部門>
「赤瀬川原平の芸術原論展―1960年代から現在まで」の企画及びカタログ中の論文 ※共同受賞
水沼啓和(みずぬま・ひろかず)
1965年神奈川県横浜市生まれ。94年慶應義塾大学大学院文学研究科美学美術学専攻修士課程修了。94年千葉市美術館開設準備室学芸員。95年~千葉市美術館学芸員。2005年~07年日本橋学館大学非常勤講師。
「赤瀬川原平の芸術原論展―1960年代から現在まで」の企画及びカタログ中の論文 ※共同受賞
岩尾徳信(いわお・よしのぶ)
1969年大分県杵築市生まれ。96年愛媛大学法文学部法文学専攻科文学専攻史学コース修了。98年大分市教育委員会採用美術館準備室→大分市美術館学芸課。2006年~大分市美術館美術振興課。
「赤瀬川原平の芸術原論展―1960年代から現在まで」の企画及びカタログ中の論文 ※共同受賞
松岡 剛(まつおか・たけし)
1975年大阪府生まれ。1998年大阪大学文学部卒業。98年~広島市現代美術館。
<美術評論部門>
「スサノオの到来―いのち、いかり、いのり」展の企画及びカタログ中の論文
江尻 潔(えじり・きよし)
1965年群馬県前橋市生まれ。90年山形大学人文学専攻科哲学専攻コース修了。90年山形美術館学芸員。93年足利市教育委員会中央美術館準備室学芸員。94年~足利市立美術館学芸員。
倫雅美術奨励賞は、選考対象を、概ね2年間に国内で発表された優れた美術評論、美術史研究、展覧会の企画(カタログ等含む)とし、対象年齢はその年の12月1日現在で概ね50歳未満の者。受賞1件に対して、奨励金として100万円が贈られる。顕呈式は12月8日(火)、東京・紀尾井町のホテルニューオータニにて。