田中功起、日本初の美術館個展でアーティストトーク 「共同体とはなにか」問う

2016年02月29日 10:29 カテゴリ:最新のニュース

 

「田中功起 共にいることの可能性、その試み」会場風景

 

2月20日に水戸芸術館現代美術ギャラリーで始まった田中功起(1975年生まれ)国内初の大規模個展「田中功起 共にいることの可能性、その試み」でアーティストトークが行われた。(取材・文/橋爪勇介)

 

今展では新作であり展覧会の大部分を占める《一時的なスタディ:ワークショップ#4 共にいることの可能性、その配置》の制作のために、移住あるいは移動を経験した参加者を一般から募集。20名強の応募者の中から選ばれた6人の一般参加者と4人のファシリテーターに加えスタッフなど計18人が延べ6日間にわたる共同生活を送り、料理や陶芸、ディスカッションなどを通して共同生活を今一度紐解く試みがなされた。

 


 

このプロジェクトの始まりはヴェネチア・ビエンナーレへの参加の1年半前(2011年頃)にさかのぼる。水戸芸術館のキュレーターから(田中に)興味があるという話が所属ギャラリーの青山|目黒にもたらされた。その後、ヴェネツィア・ビエンナーレでは日本館(キュレーター=蔵屋美香)が史上初となる特別表彰の快挙を成し遂げる。同ビエンナーレへの参加を経て展覧会の話が舞い込むかと思いきや「全く来なかった」。そこから田中と水戸芸術館の間で対話が始まる。

 

「田中功起 共にいることの可能性、その試み」会場風景

 

今展キュレーターを務めた竹久侑は2012年に「3・11とアーティスト: 進行形の記録」を手がけている。これは東日本大震災以降、何月にどのアーティストが何をしたかを時間軸に沿って、作家がどのように震災に反応したのか並べるもので、同展を観た田中は「それはものすごく残酷な展覧会だった。アーティストの震災への反応の良し悪しが人類学的な方法によってあからさまに見えた。キュレーターとしての批評的距離をもつその態度を見て、この人は信用できると思った」と話す。

 

 

2010年頃から1つの技術を持った人たちを集めて軋轢や対立、合意が生まれるような、グループの中での力関係を記録する映像作りを始めた。「通常都市で生活する場合、他者を無視する。いちいちそこにいる人たちを気にしていたら生きていけない。でも震災時に特に東京では互いに助け合う状況が生まれたと思う。例えば青山|目黒でもスペースを開放し、一時的なシェルターにしていた。一時的に集まった人々が助け合って共同で問題を解決する。そのような方法論を別の場所―ピアニストや陶芸家―に移して見直してみようという問題設定に変化していった。ピアノ(注:《5人のピアニストで1台のピアノを弾く(最初の試み)》)は最終的に曲を作り上げられた。陶芸に関しては仲違いして終わっていく。一方では合意が生まれ、一方では対立が生まれてしまった。これについて民主主義の問題に関係するんじゃないかと言われたことがあった」。

 

PARASOPHIAでの展示風景

 

その後2015年のPARASOPHIAでは京都市美術館で《一時的なスタディ:ワークショップ#1「1946年〜52年占領期と1970年人間と物質」》を発表。同館が戦後アメリカ軍に接収されたことと1970年の展覧会「人間と物質」の会場となった歴史に着目し、4名のファシリテーターと8名の高校生を参加者として5つのワークショップを行った。その最中に「参加者、ファシリテーターの間で親密な関係=共同体のようなものが生じた」のだという。

 

今回の水戸のプロジェクトは「共有」や「学び」、「共同体」などこれまで得たものを「全部入れ込んでしまおう」という考えがあった。そして共同体とは何かという問題設定は「結果的にある種の社会の縮図のようなものになった」。会場では「料理」「陶芸」「ディスカッション」などワークショップの中で行われた記録映像の他に、参加者や田中自身、また撮影を担当した藤井光などを含めた14名のインタビュー映像も展示され、それぞれが今回の作品について率直な意見を語っている。オリエンテーションの時点で応募者から「目的が見えない」との指摘もあった。当の田中自身、「結論に至る前に終わっているので大失敗とも言える」とも語る。

 

結論が提示されないこの展覧会。それは言い換えると全ての鑑賞者に開かれているということでもある。4時間以上におよぶ映像(旧作を含めると6時間弱)を見ることで、何を感じとり、何を持ち帰るだろうか。

 

「田中功起 共にいることの可能性、その試み」会場風景

 

「田中功起 共にいることの可能性、その試み」会場風景

 

「田中功起 共にいることの可能性、その試み」会場風景

 

「田中功起 共にいることの可能性、その試み」会場風景

 

【会期】2016年2月20日(土)~5月15日(日)

【会場】水戸芸術館現代美術ギャラリー(茨城県水戸市五軒町1-6-8)

【TEL】029-227-8111

【休館】月曜、ただし祝日のとき翌平日

【開館】9:30~18:00(入場は閉館30分前まで)

【料金】一般800円 中学生以下・65歳以上無料(今展は1枚の入場券で3回まで入場可能)

【関連リンク】水戸芸術館

 


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