1991年と94年に石川県鶴来町(現白山市)で開催された「ヤン・フート IN 鶴来」。日本の地域型アートイベントの起源とも言われるこの企画の、記録と記憶をたどる展覧会が金沢21世紀美術館で開催されている。
「ヤン・フート IN 鶴来」は、ドクメンタ9のチーフキュレーターなどを務めたヤン・フート(1936~2014)によるイベント。1986年にベルギーで行われた「シャンブル・ダミ(友達の部屋)」展の日本版として、故・和多利志津子(元ワタリウム美術館館長)の招聘のもと、鶴来町の蔵や家屋を会場に開催された。アーティスト・村上隆のメジャーデビューの機会となったことでも知られている。今年2月に刊行され話題を呼んでいる『地域アート――美学/制度/日本』(藤田直哉 編・著)内で、美術史家の加治屋健司は「日本のアートプロジェクトの源流」の一つとしてこの展覧会を挙げた。
現在金沢21世紀美術館アートライブラリーで開催中の「鶴来現代美術祭アーカイブ展」では、今までほとんど公開されることのなかった「ヤン・フート IN 鶴来」に関する資料を一覧することができる。これまで商工会や出品作家がまばらに保管していた資料を集めたのが、同町出身のアーティスト・坂野充学(さかの みつのり)。中学2年生のときにこのイベントを目撃した坂野は、その「初めてのアート体験」のアーカイブ構築に尽力している。今年2月~3月にかけては、自身が立ち上げたアートスペース・MITSUME(東京・清澄白河)にて同アーカイブ展を開催。坂野は資料を集めるだけでなく、展示に携わった鶴来の人々へのインタビューを映像として残すことで、それぞれの記憶をアーカイブ化している。金沢21世紀美術館キュレーターの鷲田めるろをはじめ、他にもアーティストやキュレーターが集まり、アーカイブづくりは現在さらに進行している。
同館では、坂野が2012年に制作した映像インスタレーション《Visible Breath》を展示中。祭りの地である鶴来の伝統に、坂野の解釈をちりばめ、見る者の想像力を喚起する内容となっている。「ヤン・フート IN 鶴来」から20年以上の月日が流れた現在、鶴来の地を舞台とした新たな作品が生み出されたことは、地域型アートイベントの「一時的ではない」可能性を思わせる。
なお4月23日(土)には、金沢21世紀美術館と鶴来の町をつなぐバスツアーが開催決定。坂野と鷲田めるろによるナビゲートのもと、酒蔵や醤油の醸造所といった古い町家が残る通りを歩き、その後は展覧会の立ち上げに関わったメンバーのトークを聞くことができる。
坂野によると、「ヤン・フート IN 鶴来」の資料は、商工会の保存年限の関係などで残っていないものも多かったという。地域アート興隆の中、その起源を振り返るこの一連の試みは、興すことの先にある、残すことや伝えることの意義を感じさせてくれるだろう。
アペルト03 坂野充学 可視化する呼吸 / 鶴来現代美術祭アーカイブ展
【会期】 2016年1月30日(土)~5月8日(日)
【会場】 金沢21世紀美術館(金沢市広坂1-2-1)
アペルト03 坂野充学 可視化する呼吸: 長期インスタレーションルーム
鶴来現代美術祭アーカイブ展: アートライブラリー
【TEL】 076-220-2800
【休場】 月曜(ただし5月2日は開場)
【開場】 10:00~18:00(金・土曜は20:00まで)
【料金】 無料
関連イベント
坂野充学と巡る鶴来バスツアー ※定員に達したため受付終了
【日時】 2016年4月23日(土) 13:00~17:00
【会場】 鶴来(集合・解散場所:金沢21世紀美術館本多通り口)
【料金】 無料
【定員】 先着25名
【申込方法】メールフォームより必要事項を記入
【申込期間】 4月22日(金) 16:00まで ※定員に達し次第締め切り
【問合せ】 金沢21世紀美術館 学芸課(TEL 076-220-2801)
【参加者】
まちあるきナビゲート: 坂野充学、鷲田めるろ(金沢21世紀美術館 担当キュレーター)
ゲストトーク: 村西博二(民俗学研究者)、北野一郎(元鶴来商工会青年部部長)、吉田一夫(元鶴来商工会青年部)
トーク聞き手: 小松崎拓男(金沢美術工芸大学教授)
【関連リンク】金沢21世紀美術館