[寄稿]南桂子展 風のあわいに 小川イチの作品と共に:柳原明日香

2016年05月26日 13:20 カテゴリ:最新のニュース

 

二人の画家の心の交流

 

 

ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションでは現在「南桂子展 風のあわいに 小川イチの作品と共に」が開催されている。一抹の寂しさと、どこか懐かしさもあわせもつ独特の銅版画世界を作り出す南桂子(1911~2004)。樹は立ち並び、鳥や少女がたたずみ、果てしなく広がる空。その画面世界の住人たちは、見る人を誘うでもなく、拒むでもなく、ただそこにいるだけ。ある種の無関心さが、かえって私たちを安心させてくれるのかもしれない。

 

本展では南桂子の銅版画と初期の油彩、約40点とともに、南が画家として歩み始めた頃の友人で、生涯を通して交流のあった、小川イチ(1922~)の油彩、約15点を紹介する。

 

 

小川は1922年、北海道月寒生まれ。43年に太平洋美術学校を卒業。48年には太平洋画会展で奨励賞受賞する。南と小川が出会ったのは1940年代後半、戦後の復興期にあたり、女性の画家がまだ少なかった時代。二人は芸術への期待を大いに抱き、洋画家・森芳雄のアトリエに集い、夢を語り合った。女性画家の育成を担う朱葉会などの団体展へも意欲的に作品を発表、小川は朱葉会賞受賞、会員にも推挙され、若手の画家として注目された。

 

その後、南はパリへ渡り、銅版画の道を見い出す一方、小川は国内で油彩画と向き合い、90歳を超えた今もなお、立軌展に発表を続けている。めまぐるしく変わる作風の中で一時期は南作品に響くような孤独な情景も描いたが、1980年代以降は桜の大樹をモチーフとし、「透けていく風の心境」と評される作品が主流となった。

 

海を隔てても、画家として、友人として、南と小川の心の交流は続いた。その二人の作品を半世紀近くの時を経た今、同じ空間に展示することとなった。それぞれの表現方法で、たゆむことなく憧れや心のよりどころを描き通した、二人の画家の凛とした姿を、作品を通して感じてほしい。
また、浜口陽三の銅版画約15点の展示も同時に行う。

(ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション学芸部)

 

 

【会期】2016年5月21日(土)~8月7日(日)

【会場】ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション(東京都中央区日本橋蛎殻町1-35-7)

【TEL】03-3665-0251

【休館】月曜、祝日のとき翌日

【開館】11:00~17:00(土曜は10:00より、第1・3金曜は20:00まで開館。入館はそれぞれ閉館30分前まで)

【料金】一般600円 高校・大学生400円 中学生以下無料

【関連リンク】ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション

 


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