8月30日、現代ドイツを代表する写真家トーマス・ルフ(1958年生まれ)の日本初の回顧展が東京国立近代美術館で開幕する。その前日の29日、同展の記者会見に合わせトーマス・ルフ氏が来日した。
ルフ氏はアンドレアス・グルスキーやトーマス・シュトゥルートらとともにベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻に学び、「ベッヒャー派」として1990年代以降の写真表現をリードしてきた。20年ほど前から取り組み続けるのは、インターネットに代表される現代の情報空間に関する作品。「ネットに溢れる膨大な画像と、どう付き合うべきか?」という問題をテーマに、ネットからダウンロードしたJPEG画像などを用いた〈jpeg〉シリーズ(2004年)や、日本の漫画やアニメから取り込んだ画像に加工を繰り返した〈Substrate〉シリーズ(2001年~)を発表している。
会見でルフ氏はまず、「写真を学び始めた当初は、まさか自分の個展が東京で開催されるとは夢にも思っていませんでした。というのも、写真は一級品として認められるものではないという認識があったからです」と述べた。「今回の展覧会は、私の作品を通して写真の歴史そのものを展観することができる構成になっています。フォトグラム、そしてアナログ写真からデジタル写真へ。写真のテクノロジーは、これからもさらに発展していくでしょう。また日本ではこの18年間、ギャラリー小柳で発表の機会があり、長年支えてくださった方々に感謝しています」。
そのあとの質疑応答で自身の作品の政治性について聞かれると、「私はすべてのアーティストは政治的であると考えています。私たちすべての人間は政治的な存在で、社会の中で起きていることに反応せざるを得ないからです」と応える。「写真はずっと〈社会の目撃者〉であり、様々な出来事を記録し続けた存在。そのため自ずと政治的な側面を帯びてくるのだと思います」。
またどのような「時間」を写真において捉えようとしているのか、という質問には、「写真を見る行為自体が、当時に過去をのぞくこと。ある一定の記憶をとどめるのが写真の本質なのではないかと思います」と返答する。それと関連し「インスタグラムなどSNSにおいての写真のあり方は、私の試みと正反対。SNSはupした瞬間に記憶から消えてしまいますが、私は深く記憶に刻み込まれるような作品をつくろうとしています」と述べた。そして自身の作品の未来については、「1000年先において、これらの作品がどのような場所で展示されるかを考えてみると、例えばポートレートは自然史の博物館に収蔵されているかもしれません」と思いを馳せた。
作品選択や展示構成にも作家自身が参加した今展では、その初期から未発表の最新作までを紹介。高さ約2メートルの巨大なポートレート作品、建築、都市風景、ヌード、天体といった、全18シリーズ約125点で構成される。会期中には写真家・ホンマタカシや建築家・塚本由晴による講演会も開催される。あわせて注目したい。
【会期】2016年8月30日(火)~11月13日(日)
【会場】東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園3-1)
【TEL】03-5777-8600(ハローダイヤル)
【休館】月曜、9月20日(火)、10月11日(火) ※ただし9月19日(月)、10月10日(月)は開館
【開館】10:00~17:00(入館は16:30まで)※金曜は20:00まで(最終入館19:30)
【料金】一般1,600円 大学生1,200円 高校生800円
【関連イベント】
■講演会 塚本由晴(建築家、アトリエ・ワン代表)
日時: 10月2日(日) 14:00~15:30(開場 13:30)
場所: 同館講堂(地下1階)
料金: 無料(先着140名)、申込不要
■講演会 ホンマタカシ(写真家)
日時: 10月8日(土) 14:00~15:30(開場 13:30)
場所: 同館講堂(地下1階)
料金: 無料(先着140名)、申込不要
【巡回】金沢21世紀美術館=2016年12月10日(土)~2017年3月12日(日)
【関連リンク】トーマス・ルフ展公式ホームページ
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