中川一政(1893~1991、文化勲章受章)没後四半世紀の節目に、初期作から絶筆までを一堂に公開する回顧展が開催。明治から平成を生きた画家が、何を求め、どう生き抜いたかを作品を通して追体験できるだろう。
白山市立松任中川一政記念美術館
開館30周年記念
生涯を貫く創作への情熱 : 徳井静華
躍動感豊かな画で今なお私達を魅了する中川一政。その美術館が彼の両親ゆかりの石川県の金沢市の隣り白山市・松任にあります。中川没後25年の今年、改めて77年に及ぶ画業を辿る展覧会を開催します。
本展では、中川の初期から最晩年まで、独自の画境を切り拓いていく軌跡を追い、その創作姿勢に迫ります。また、影響を受けた武者小路実篤や岸田劉生も紹介します。
大正期、日本に紹介されたゴッホやセザンヌに触発され、独学で画の道に入る中川。初期は詩情を内包した静穏な画風ですが、徐々にデフォルマシオンが表れてきます。中川はアカデミックな技法では描ききれない「ムーヴマン」(彼が言う場合には、絵画における動勢のみならず、対象に臨んで湧き起る自らの感動をさす)を表現することに近代絵画の、そして自分の道を見出します。
戦後から最晩年まで多く描かれる花は、彼の姿勢を知る上で欠かせない画題です。70~80年頃(凡そ80歳代)の《薔薇》等は鮮やかな筆致が見るものを捉えますが、80年代以降のそれらは花の外見上の形象に捉われず、ムーヴマンがより純化され画中に息づいています。幾百作と描きながら常に新たな境地を求めていくのです。
また、箱根の山を描いて中川の真骨頂といえる《駒ヶ岳》は、67年(74歳)から取り組んだ画題で、実に90歳を越えるまで現場でこの山に挑みました。〝山は描け描けと云う〟の言葉に描かずにはいられない画家の純粋な思いが伺えます。
さて、副題「壮心不已」は曹操の「老驥伏櫪 志在千里 烈士暮年 壮心不已(ろうき れきにふすも こころざし せんりにあり れっし ぼねんになるも そうしんやまず)」からの引用で、中川が自作の印に刻んだ言葉です。老境に入ってなお高い志を持ち続ける―まさに生涯創作への情熱を失わない生き様と重なります。〝ずっと遠い所を見て、僕はいま描いている〟。95歳当時のこの言葉も到達点を定めず自己革新を続けた中川の姿勢を表しています。画業を辿ることは、彼が次に目指した境地を探る試みでもあります。
「芸術」が限りなく広範多岐に亘る現代にあって、表現することの根幹を自らの内から湧き立つ感動に定め挑戦し続けた「中川一政」を観ることは、今を生きる私達に、描くこととは、生きることとは何かを問う機会となるのではないでしょうか。
(白山市立松任中川一政記念美術館学芸員)
【展覧会】没後25年 中川一政展 ―壮心不巳(そうしんやまず)―
【会期】2016年9月10日(土)~11月27日(日)
【会場】白山市立松任中川一政記念美術館(石川県白山市旭町61-1)
【TEL】076-275-7532
【休館】月曜、祝日のとき翌平日
【開館】9:00~17:00(入館は閉館30分前まで)
【料金】大人300円 高校生200円 中学生以下および障がい者手帳を提示者の方とその介護者1名は無料
【関連リンク】白山市立松任中川一政記念美術館
関連イベント:
・オープニングイベント「中川一政文芸の朗読会」
【日時】9月10日(土) 13:30~14:30
【講師】西川章久氏・フリーアナウンサー
・記念講演会
【日時】10月16日(日)13:30~15:30
第1部 コンサート:シャンソン・カンツォーネ 小松原るな氏
第2部 講演会「中川一政の芸術の魅力」土方明司氏(平塚市美術館館長代理)
※ともに参加無料(要観覧料)、定員60名(申込順)、申込は同館へ電話かファックスで