[寄稿]クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス―さざめく亡霊たち:田中雅子

2016年09月20日 16:39 カテゴリ:最新のニュース

 

20世紀後半を代表する美術家であるクリスチャン・ボルタンスキーが、東京で初、国内では26年ぶりとなる個展を東京都庭園美術館で開催する。今展のための新作「声」を含む、日本未発表作中心のインスタレーション6作を展示。その一部が国の重要文化財でもある同館との、空間の「対話」も見どころとなるだろう。ボルタンスキーの制作、そして今回の展示作品について、同館学芸員の田中雅子氏にご寄稿いただいた。

 

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旧朝香宮邸に交錯する 時間、空間、そして記憶

 

東京都庭園美術館では9月22日より、フランスの現代美術家クリスチャン・ボルタンスキー(1944年~)の個展を開催します。ボルタンスキーは映像作品やパフォーマンス性の高い作品を制作していた初期から、多様な形態のインスタレーションを手掛ける現在まで一貫して、歴史の中で濾過される記憶の蘇生、匿名の個人/集団の生(存在)と死(消滅)を表現してきました。

 

自己の幼年時代の再構築にはじまるボルタンスキーの記憶をめぐる探求は、次第に他者の記憶のアーカイヴへとその主題を移し、1980年代には、ヨーロッパを中心に歴史認識を再考する議論が活発化した社会状況や、ユダヤ系フランス人の父親の死に呼応するように、先の大戦にまつわる歴史と記憶、殊にホロコーストを想起させるようになります。写真や衣服、ビスケットの缶などごく日常的な素材に人間の根源的なテーマを滑り込ませるインスタレーションは、それを知覚する鑑賞者の感情を揺り動かし、見るものと見られるものの記憶の交錯を生み出します。

 

東京で初個展となる本展では、時代の転換期の中で重ねられた歴史と、往来した人々の記憶を宿す旧朝香宮邸で、〈亡霊たち〉のさざめく舞台が展開します。踊る影に、名もなき人々の眼差しに、遠い地で微かな音色を奏でている数百本の風鈴に、そしてささやく「声」に、〈亡霊たち〉は立ち現れます。この〈亡霊たち〉は、すでに失われた過去のものではなく、「アニミタス」という言葉の語源が「霊魂」のほかに「生命」をあらわすように、今ここに存在しないもの(あるいは、したかもしれないもの)、まだ生まれていないものたちが、この世界に確かに存在し、そうした無数の「他者」と共に私たちは生きているということを伝えるものです。

 

ここ東京都庭園美術館で〈亡霊たち〉と鑑賞者の眼差しが出会うたびに、時間と空間と記憶が入り混じり、美術館を超えて世界を知覚するための新しい眼差しが生まれるでしょう。

(東京都庭園美術館学芸員)

 

【展覧会】クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス―さざめく亡霊たち

【同時開催】アール・デコの花弁 旧朝香宮邸の室内空間

【会期】2016年9月22日(木・祝)~12月25日(日)

【会場】東京都庭園美術館 新館ギャラリー1・2および本館(東京都港区白金台5-21-9)

【TEL】03-5777-8600(ハローダイヤル)

【休館】第2・第4水曜日(9月28日、10月12日・26日、11月9日・24日、12月14日)

【開館】10:00~18:00 ※ただし11月25日(金)、26日(土)、27日(日)は夜間開館のため20:00まで
(いずれも入館は閉館の30分前まで)

【料金】一般900円 大学生(専修・各種専門学校含む)720円 中・高校生・65歳以上450円
※この料金で「アール・デコの花弁 旧朝香宮邸の室内空間」展も観覧可能

 

【関連イベント】

■ARTBOOK CLUB わたしの中の亡霊
第1回「インスタレーションと鑑賞者のエモーショナルな関係」2016年11月25日(金) 18:00~19:30
第2回「一風変わった幼少期から アーティスト ボルタンスキーの誕生」2016年11月26日(土) 14:00~15:30
会場:同館本館 
定員:各回20名、事前申込制(10/25よりオンライン予約開始)
料金:無料(要展覧会チケット)

 

■ギャラリートーク キュレーター・トーク
日時:2016年11月4日(金)、12月9日(金) 17:00~ (約30分)
料金:無料(要展覧会チケット)、予約不要 ※当日の混雑状況により入場制限を行う場合あり

 

■インターン・トーク
日時:2016年10月19日(水)、11月16日(水)、12月7日(水) 15:00~(約20分)
料金:無料(要展覧会チケット)、予約不要 ※当日の混雑状況により入場制限を行う場合あり

 

【関連リンク】東京都庭園美術館

 

 


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