[寄稿]久保田すみ子 回顧展:ワシオ・トシヒコ

2016年09月17日 15:27 カテゴリ:最新のニュース

 

凛とした図と面の交響――

 

 

とにかく女性の芸術表現者としては、一般的な感情に流されないで、理智の光をひたむきに追い求め続けてきた稀有な存在に違いない。その研鑽努力には、並々ならぬものがあったのではなかろうか。1921年生まれだから、今年95歳。さすがに視覚が不自由になったとはいえ、その声は澄み、感性も衰えを見せない。ユーモアセンスも相変わらずだ。

 

久保田さんは本来、画家志望だった。ところが戦前の日本は良妻賢母が理想とされ、ピアノや染色技術が奨励された。やむを得ずその道へと進んだのが、50年代前後。美術界は、抽象表現全盛の時代だった。画廊通いをするうち、彼女も抽象造形へと目覚めていく。評論の針生一郎、植村鷹千代、東野芳明、画家の間所沙織などと出会ったのもその頃だ。染色部のある公募団体の太平洋画会展へ出品。一気に都知事賞を受賞して準会員に推されたけれど、人間関係が煩わしく、早々と退会した。芸術表現はどこまでも自由でなければならない、ということに思い至ったのである。以降はパリと北京を例外とすれば、個展と仲間うちのグループ展を軸とし、制作発表を続けて現在へ至っている。

 

久保田さんと私の出会いは、クレーやベン・ニコルソンなどのように、純粋に作品造形が形而上学的に首尾一貫していることに魅了されてのこと。まるで蝋を引っ掻くエッチングみたいに、画いて究める面と線と空間との相互重層関係による交響と構築の絶妙さ。例えば《試み(やつで)》などは、全作品中でも比較的理解しやすいのではないだろうか。本作品集の表紙を飾る《日曜の朝》も、スルメのようなフォルムと線の緊張感に何ともスリルがあり、ユーモアがあって印象深い。

 

待望久しい個展である。関心が、さざ波のように広がっていくだろう。

(美術評論家)

 

 

 

【会期】2016年9月20日(火)~26日(月)

【会場】田中八重洲画廊(東京都中央区八重洲1-5-15)

【TEL】03-3271-7026

【休廊】無休

【開館】11:00~19:00(最終日は16:00まで)

 

【関連リンク】田中八重洲画廊

 


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