平成28年度の文化功労者が10月28日に発表された。美術からは、日展を中心に活躍する書家の尾崎邑鵬(92)、小山やす子(92)、『奇想の系譜』などの著書を通じて伊藤若冲や曾我蕭白らを再評価した美術史学者の辻惟雄氏(84)らに決定した。
〈文化功労者〉尾崎邑鵬【書(漢字)】
尾崎邑鵬(本名:尾﨑敏一)氏は1924年京都府生まれ。出征を経て終戦後に広津雲仙に師事し、その後、松坂屋大阪店勤務時代に辻本史邑に師事。55年に「高適詩」で日展に初入選し、73年に日展会員、86年に同評議員(現在は会員)。長年にわたって専ら中国晋代の王羲之を学び、さらには中国各時代の多様な書法の研究を通じてその書世界を深めてきた。
これまで日展の理事、日本書芸院理事長および全日本書道連盟理事長など関係団体の要職を歴任。書芸術の振興と後進の育成に尽力し、97年に勲四等旭日章綬章を受章した。
〈文化功労者〉小山やす子【書(仮名)】
小山やす子氏は、1924年生まれ。上野高等女学校を卒業後、川口芝香に師事し75年に「若山牧水のうた」で日展初入選。以降、毎日書道展や日展で受賞を重ね、現代の女流書家の第一人者として優れた作品を発表し続けている。2009年に日本藝術院賞・恩賜賞を受賞。現在は日本書道美術院常任顧問、毎日書道会常任顧問、全国書美術振興会顧問を務める。
平安時代11世紀から12世紀の古典の仮名を範としながらも、昭和から平成の時代を反映した自らの書風を探求。その書風の確立はもとより、料紙と書の調和そして装丁までを考慮しての作品制作を試みている。
〈文化功労者〉辻 惟雄【美術評論・文化振興】
辻惟雄氏は、1932年愛知県名古屋市生まれ。東京大学・同大学院で美術史を専門とし、中世末から近世の絵画を中心に基礎的な調査研究を行い、多くの論考を発表して美術史学界において重要な業績を残してきた。東北大学文学部教授を経て東京大学文学部教授として教鞭を執り、今日の美術史学界で活躍する多くの人材を育てた一方で、千葉市美術館やMIHO MUSEUMの館長を歴任し、美術館の企画・運営においても手腕を発揮している。
『奇想の系譜 又兵衛―国芳』や『若冲』等の著作は、伊藤若冲、曾我蕭白、長澤芦雪らの今日の国内外における高い評価の端緒となり、また、近年は現代美術の評論や、村上隆ら現代作家とのコラボレーションを行うなど、新しい世代の創造活動にも寄与している。
その他、元体操選手で日本体操協会評議員・顧問を務める小野喬氏、歌手の杉良太郎氏ら全16名に決まった。顕彰式は11月4日(金)にホテルオークラ東京で行われる。今回で文化功労者の延べ人数は839人(現存者237人)となった。