第8回「創造する伝統賞」に、風間サチコ、満田晴穂、青木芳昭の3氏が決定した。
同賞は、伝統の探求を礎に新たな挑戦を試みる文化・芸術の継承者へ贈られる。副賞は100万円。今回の選考委員を務めたのは柏木 博(デザイン評論家/武蔵野美術大学教授)、唐澤昌宏(東京国立近代美術館工芸課長)、根岸吉太郎(映画監督/東北芸術工科大学学長)、花光潤子(プロデューサー/ NPO 法人魁文舎理事長)、古山正雄(国立大学法人京都工芸繊維大学学長)、山本豊津(株式会社東京画廊代表取締役社長)の6氏。それぞれの授賞事由は以下。
■風間サチコ<美術家(現代美術)>
【授賞事由】表現に係る制作では、今まで「伝統とは」を問う姿勢が見られる作品が伝統芸術として残ってきた。美術が芸術に格上げされるには、素材・技法ともに歴史性を課題としながら、制作者が生きる時代への批評性を備えている必要がある。風間サチコ氏の作品は、和紙に木版という伝統的な素材と技法を継承しながら、現代社会の状況と矛盾を風刺的に表している。それらは新しい想像力と感性の展開を社会に対して投げかけている。然も版のスケールは従来のサイズを越えており、刷られる枚数は少なく、オリジナル性を重要視する現代美術として成立している。「創造する伝統」のコンセプトに適う、500年後の人類に残したい作品であり、今後さらなる期待ができる作家である。(山本豊津)
■満田晴穂<自在置物作家>
【授賞事由】自在置物は、金属を素材に動物や昆虫などの生き物をモチーフとして写実性を追求した金工作品で、その関節までもつくり込むことで自在に動かすことができる。江戸時代中期に甲冑師の一派が生み出し、明治時代には海外において高い評価を得たが、その後はほとんど忘れ去られ、技も失われつつある。満田晴穂氏は、その技を受け継ぎつつ、既成の枠組みにとらわれない自由な発想のもと、現在(いま)の時代に相応しい新たな造形の展開にも取り組んでいる若手の作家である。作品には、生き物がそこに実在しているかのようなリアルさがあり、無機質の金属から生み出されたとは思えない生命の力を宿している。そのインパクトは日本のみならず、海外への展開も期待される。(唐澤昌宏)
■青木芳昭<美術家(技法材料学)>
【授賞事由】青木芳昭氏は、洋画制作を通して、絵画及び工芸の様々な素材や道具を研究してきた。近年では、日本の文化芸術の発展に必要不可欠な素材である「和膠」の復刻を主に、絶滅の危機に瀕する素材や道具を復元・死守する活動を行っている。和膠が 2010年に生産が停止されたことによる、絵画制作はもとより修復の分野でも欠かせない素材が手に入らなくなるという衝撃は記憶に新しい。青木氏は、素材や道具という表舞台には出ないが日本の伝承・伝統を支えている分野において重要な役割を果たしている。また、教育現場においても、これらの研究を若い世代に伝え、新たな担い手を育てるとともに、今後の文化・芸術の創作的活動にも寄与するものと期待し、高く評価する。(唐澤昌宏)
【関連リンク】公益財団法人日本文化藝術財団:創造する伝統賞
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