70歳以上を対象とした全国公募展「老いるほど若くなる」が7回目の開催を迎える。今回は全国40都道府県から440点の応募があり、109作品が入賞・入選に決定した。以前より本展審査員をつとめ、他にも数々のコンクールで審査員をつとめる洋画家で国画会会員の佐々木豊氏(1935年名古屋市生まれ)に、受賞作の見どころなどを寄稿してもらった。
くどくなるほど良くなる? : 佐々木豊(洋画家、本展審査員)
「老いるほど若くなる」とはよく言ったものだ。美術記者として鳴らした氏のことはある。
その旨を松本市美術館館長に天下った米倉守氏に伝えると、「でも、応募しないでね」と即座にクギを差した。その時、七十歳になったばかり、出鼻をくじかれた。だから、審査に呼ばれた時は嬉しかった。偉そうな顔して一日中、絵の中を歩き回れるからね。呼んでくれたのは、次の竹内順一館長だったが。
3年ごとの開催で出発したのが、今は隔年ごとの開催で、2017年の今年で7回目。小川稔館長と中島千波氏とで審査を終えたばかりだ。応募者は増えている。見たことのない絵に出会えるのも楽しみだ。
例えばグランプリの塔本賢一氏。何と筆ではなく、串で描いている。串からしたたり落ちる点で。串には絵具を留める釣り用の浮きゴムがとりつけられている。作者の隣りに描かれているのは苦労を共にした奥様。準グランプリの山本泰彦氏は、諏訪大社の御柱祭を描いた。現地で目撃して感動したという。同じく、準グランプリの阿部香氏は海を背景に、自作の人形を描いている。
炎につつまれる原爆ドームを描いた堀内一光氏の絵を見た時は慄然とした。逃げまどう子供たちと、無数の目が散らばっている。異様な絵だ。86歳の作者は、あの時、中学生だった筈。小学生だった私同様、いまだに戦争を引きづっているのが分かる。迷わず佐々木豊賞を。
第5回展グランプリの大橋裕一氏は、永井画廊の「公募―日本の絵画2016―」でも優秀賞を得た。画歴は、ほぼ50年、他のコンクール公募展でも、受賞している。阿部氏は光風会の会員である。団体展に所属しながらの出品者も増えている。
スポンサー賞の多彩さもこの公募展の魅力だ。浅間温泉の宿泊券もあれば、農協のお米四萬円分というのもある。受賞式後のパーティーには同伴組も多く、華やかである。
塔本氏の点描の絵が示すように、手間ヒマかけた絵が多い。時間がたっぷりあるから、とは言うまい。老人の話はくどい。くどくなるほど、良くなる絵もあるのだ。
健康寿命延伸都市・松本 70歳以上の公募による美術展 第7回 老いるほど若くなる
【会期】 2017年3月4日(土)~4月9日(日)
【会場】 松本市美術館(長野県松本市中央4―2―22)
【TEL】 0263―39―7400
【休館】 月曜、祝日のとき翌平日
【開館】 9:00~17:00(入場は16:30まで)
【料金】 大人600円 大学高校生・70歳以上の松本市民300円
【関連リンク】 松本市美術館