モダニズム研究の優れた功績に対して贈られる米国の「ロバート・マザーウェル・ブックアワード(The Robert Motherwell Book Award)」を、美術史家・富井玲子の著書『荒野のラジカリズム:国際的同時性と日本の1960年代美術』(MIT出版)が受賞した。アジアをテーマとしたものに本賞が贈られるのは初めてのこと。
昨年刊行された本書は、1960年代、既成概念を打破しようとした日本の前衛美術の動向をテーマに、西洋中心史観の現代美術研究ではなく、周縁に根ざした世界美術史の方法論を提案するもの。日本でも本格的な研究が緒についたといえる松澤宥、ザ・プレイ、GUNを紹介した視点もさることながら、「グローバルにモダニズムを複数で考えることの意味」に取り組んだことが高く評価された。
なお、2012年度にはミン・ティアンポ著『Gutai: Decentering Modernism』(邦訳『GUTAI: 周縁からの挑戦』三元社)が佳作に入っている。今回の受賞は、個人の業績顕彰もさることながら、ティアンポの佳作とあわせて、英語圏における戦後日本美術史研究の充実のみならず、何よりも「戦後日本」というパラダイムからなされた世界美術史への貢献を示す受賞でもあると言えるだろう。富井には同賞を主催するThe Dedalus Foundationより賞金$10,000が贈られる。
富井玲子は1984年に大阪大学で修士課程を修了後、テキサス大学オースティン校で博士号(美術史学)取得。ニューヨークの国際現代美術センター(CICA)に勤務したのち、ニューヨークを拠点に美術史家・インディペンデントキュレーターとして国際的に活躍する。戦後日本美術の研究者グループ「ポンジャ現懇」主宰。
関わった展覧会に「グローバル・コンセプチュアリズム」(クイーンズ美術館、1999年)、「センチュリー・シティー」(テート・モダン、2001年)、「シノハラ・ポップス!」(ドースキー美術館、2012年)、「篠原有司男・篠原乃り子二人展 愛の雄叫び東京篇」(パルコミュージアム、2013年)など。日本語共著に『戦後美術と美術批評』(ブリュッケ、2007年)がある。
【関連リンク】The Dedalus Foundation
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