好評開催中「第5回選ばれた寄贈作品展」、「清水勝 動物画展」、同時開催「エスカリエ展」(3展共〜10月25日まで)
洋画家・岩橋好男による読売新聞・読者欄への投稿『無名画家の作品 寄贈の場を』(2012年2月1日付)をきっかけに、同年11月1日に誕生した「置戸ぽっぽ絵画館」(北海道置戸町)。
無名画家の“この一作”を画家自身やコレクターからの〈寄贈作品を展示する場〉としてオープンした同館は5年目を迎え、無名どころか著名作家の作品も多数寄せられ、収蔵は現在498点に達する。予想もしなかった反響に、〈善意の連鎖でできた奇跡の美術館〉と讃えられ、昨秋11月には特定非営利活動法人(NPO法人)の認可も下り、“アートの町、置戸”を目指し今後の構想は大きく膨らむ。運営会員・賛助会員は地元を中心に約150名を数え、周囲の理解・応援は心強い。同町の公共施設にも一部作品が寄託展示され、今後は町民への芸術啓蒙活動など社会教育の実践が待たれる。但し同館は同町コミュニティセンター内にあり、美術展示専用空間ではない。今後はより良い鑑賞環境を整えるため、町を挙げて施設の改善に向け検討中とのこと。
置戸町は道東の北部、北見市中心から南西約36kmに位置する。周辺はゆるやかな丘陵地帯が連なり、長い直線道路が続く北海道特有の広大な景観が広がる。畑作(ビート、小麦、じゃがいも等)、酪農、林業が主な産業。3千人余の人口に赤十字病院、小・中・高校、人口1人当たりの貸出率が全国一を誇る自慢の図書館など社会資本が充実、町内道路の歩道には季節の花が彩りよく植栽されるなど住環境への高い意識が覗われる。温泉施設やファミリーで楽しめる2つの大規模なパークゴルフ場もあり、住み易い町の印象を受けた。毎年6月最後の週末には「おけと夏まつり・人間ばん馬大会」が開かれ、周辺地域からも大勢の見物客が訪れる名物行事だそう。
また同館周辺には町営「オケクラフトセンター森林工芸館」があり、工房と共に木工クラフト作家たちの作品が展示販売されている。唐松や白樺など白木の製品は清潔感があり、年輪を生かした削り出しは見飽きることがない。そして日本はもとより世界中の貨幣を体系的に蒐集した私設「お金の博物館」も見どころ。マニアが日本中から集まるという。回遊しながら楽しみたい。
「NPO法人 置戸ぽっぽ絵画館」では現在、3つの企画を開催中(~10月25日まで)。①第5回「選ばれた寄贈作品展」は寄贈作品から100余点を展示。②「清水勝 動物画展」は「シートン動物記」などの挿画で知られる動物画の第一人者・清水勝(98歳)から200余点の寄贈を受け、うち動物たちのリアルな動きを描写した約80点を展示。③同時開催「エスカリエ展」は洋画家・故沢村美佐子指導の絵画教室メンバーによる展示となっている。また、全ての展示作品には日油(株)の反射防止フィルムが貼られ、鑑賞の障害が取り除かれている。
6年目(11月1日〜2018年10月25日)は、寄贈作品展と共に、鉄道をテーマに“描き鉄”として知られる日本画家・棚町宣弘の特集展示を予定している。
「私の大事な作品、将来一体どうなるの?」とご心配の画家がほとんどと察する。生前整理に頭を悩ませている作家も多いと思う。その解決策の一つとして、生涯の“この一作”をこの館に寄贈してみるのも一考だ。そうした作品が集結することで各人の画業が再評価され、新たな顕彰の機会に繋がることだろう。
同館は地元の有志が運営し、展示環境には未だ改善の余地を残すが、応援する人々の熱意がより良い空間を創出する。アートの力が地域社会を動かし、変革の原動力となっていることは、一つのモデルケースとして全国に波及していくことを期待したい。
北海道はこれからがベストシーズン、同館へも是非立ち寄ってもらいたい。
(取材・文・写真 窪田元彦)
【展覧会】「第5回選ばれた寄贈作品展」「清水勝 動物画展」「エスカリエ展」
【会期】2016年11月1日(火)~2017年10月25日(水)
【住所】北海道常呂郡置戸町字置戸456-1
【TEL】0157-52-3742(細川方)
【営業時間】9:00~18:00
【休館】無休
【関連リンク】置戸ぽっぽ絵画館