日本画家・小茂田青樹の回顧展、島根県立美術館で開催―松江時代の13作品も展示

2017年07月06日 10:30 カテゴリ:最新のニュース

 

現在の埼玉県川越市に生まれ、速水御舟との出会いや赤曜会、院展での活躍などから知られる日本画家・小茂田青樹。かつて約1年間を過ごした島根県松江市の島根県立美術館にて回顧展が開かれる。画壇と距離をおいた松江時代にも焦点を当てる今展について、同館の田野葉月学芸員の寄稿から紹介する。

 

《虫魚画巻》(部分)1931(昭和6)年 東京国立近代美術館蔵

《虫魚画巻》(部分)1931(昭和6)年 東京国立近代美術館蔵

 

 

写実と装飾の融合へ:田野葉月(島根県立美術館主任学芸員)

 

1921年30歳のとき再興院展同人に推挙され、41歳で亡くなるまで院展に出品し続けた小茂田青樹(1891~1933)。今村紫紅から薫陶を受け、前衛的な日本画を世に問うてゆく道を歩み出した青樹にとり、第6回院展で六曲二双の大作にして自信作、《四季屏風》が落選したことは厳しい試練となり、その後の画業を決定した。

 

青樹の作品は彼をよく知る小山大月から、「小茂田的野暮ったさ」と形容される独特の情趣を有する。一方、青樹の画業を見渡したときに現れる、毅然とした態度には懸隔があるように思う。大正期の約5年間は仮寓に転々とする生活を続け、作画に没入できる環境に身をおいて、自らに緊張を課している。島根県松江市に滞在したのもこの時期であった。生まれ育った関東からこれほど遠方に長期滞在したのは、赤曜会前夜、京都に速水御舟らと住まいして以来であろう。

 

彼らは常にともに行動し、切磋琢磨する関係にあった。設定した課題に紫紅以下赤曜会メンバーが取り組み、同じ題材で作画し、また研究成果について議論する。青樹と3歳下の御舟はとくにお互い譲らず、尊敬しあう仲でもあった。院展同人になるのは御舟が4年早く、それでも青樹の自負の強さは制作に昇華してゆく。青樹に対する当時の批評のほとんどが御舟との比較で語られるほど、作画上の試みは共通していた。赤曜会時代の南画風構図による風景画や、折枝画に影響を受けた草花図、北方ルネサンスや院体画の細密描写を意識的に取り入れた静物画、琳派に構図を学んだ作風など、相前後する時期に展開してゆく。

 

このことは両者の課題設定の仕方において至極当然なのではないだろうか。むしろ緊張感をともなう影響関係が作品上で表出されることと、詩情という評価基準で語られる青樹の作品がもつ特徴を、本展で会する約90点を通してあらためて見直してみたい。画壇から孤絶した松江時代を経て独自の方法による模索を重ね、究極的には日本画で同時代に共有されていた課題に答えるべく収斂してゆく様を追うことは、小茂田青樹を顕彰する機会になると信じる。

 

 

《四季屏風(夏・冬)》1919(大正8)年 滋賀県立近代美術館蔵

《四季屏風(夏・冬)》1919(大正8)年 滋賀県立近代美術館蔵

 

 

《農村の船着場》1920(大正9)年 何必館・京都現代美術館蔵

《農村の船着場》1920(大正9)年 何必館・京都現代美術館蔵

 

「小茂田青樹」

【会期】 2017年7月14日(金)~8月28日(月)

【会場】 島根県立美術館(松江市袖師町1―5)

【TEL】 0852―55―4700

【休館】火曜(ただし8月15日は開館)

【開館】 10:00~日没後30分(展示室への入場は日没時刻まで)

【料金】 一般1000円 大学生600円 小中高生300円

【関連リンク】 島根県立美術館

※会期中、一部展示替えあり

 

記念講演会「小茂田青樹~写実と装飾の間(はざま)から~」

【開催】 8月20日(日) 14:00~(13:30開場)

【料金】 無料

【講師】 伊豆井秀一(元埼玉県立近代美術館主席学芸主幹)

【会場】 美術館ホール(190席/当日先着順)

 

オープニング・ギャラリートーク

【開催】 7月14日(金) 10:00~(約40分)

【料金】 要企画展観覧料

【会場】 企画展示室

 

ギャラリートーク(担当学芸員による作品解説)

【開催】 7月22日(土)、30日(日)、8月13日(日) 各日14:00~

【料金】 要企画展観覧料

【会場】 企画展示室

 

 


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