戦国の画僧、知られざる画業に迫る:片山寛明(MIHO MUSEUM学芸員)
雪村(1490前後―1573以降)は、室町後期から戦国時代にかけて、東国で活躍した画僧である。常陸国(茨城県)の武家・佐竹氏の一族に生まれたが、幼くして禅寺に出家し、多くの絵画に接しながら画の修行に励んだと考えられている。
50歳頃から関東各地を遊歴、会津(福島県)から小田原、鎌倉(いずれも神奈川県)では北条氏の持つ中国画や寺院に伝来する作品に学び、独創的な表現を確立していった。60歳代半ばから会津、三春(福島県)を行き来しながら、多くの傑作を生み出し、80歳代後半まで衰えぬ筆力で描き続けた。
雪村が生きた時代、画は中国画を手本にするのが当然であった。しかし、雪村の描く人物画や山水画は、伝統的な様式をはみ出して、破天荒でドラマティックなものが多く、若冲、蕭白、芦雪、国芳などに評される「奇想」の端緒を、雪村に位置付ける所以はここにある。一方、動植物を題材にした作品は写実的で、生き物に対する慈しみや、細やかな感性が表出している。
謎の多い雪村の生涯だが、関東・東北の諸大名家に多くの作品が伝わることから、当時高い評価を受けていたことは間違いない。また、尾形光琳(1658―1716)は雪村を好み、その画を丁寧に模写し、雪村の名が刻まれた石印(朱文方印)まで所有していた。近世には狩野派の絵師が雪村画を粉本(手本とした模写)として継承し、近代日本画の父と称される狩野芳崖(1828―88)や橋本雅邦(1835―1908)は、雪村作品をいくつも模写して独自の表現を研究した。
本展覧会は、海外からの里帰り作品を含む雪村の主要作品約80件に、雪村から大きな影響を受けた後代の関連作品約30件を加えた過去最大規模の回顧展となる。知られざる戦国の画僧・雪村の魅力をご堪能いただければ幸甚である。
併せて開館20周年を記念し、中国・山東博物館より5年ぶりに再来する菩薩像や、MIHOコレクションからシルクロードの名品約80件を厳選した「永遠の至福を求めて」が同時開催となる。
「雪村―奇想の誕生」
【会期】 2017年8月1日(火)~9月3日(日)
【会場】MIHO MUSEUM(滋賀県甲賀市信楽町田代桃谷300)
【TEL】 0748-82-3411
【休館】月曜
【開館】 10:00~17:00(入館は16時まで)
【料金】 一般1100円 高・大生800円 小・中生300円
【同時開催】 開館20周年記念特別企画 「永遠の至福を求めて」
【関連リンク】 MIHO MUSEUM
■《子どものアトリエ》 「古代アッシリアのレリーフ」造り
【開催】 8月11日(金・祝) 13:30~16:00
【対象】 小学生
【料金】 材料費500円 (参加する子どもと引率者2名まで入館料無料)
※同館教育普及担当(TEL 0748-82-8036)へ要事前予約(1週間前まで)
■《とっておき美術公開講座》
【開催】 8月12日(土) 14:00~15:00
【料金】 参加無料(要入館料)
【講師】 片山寛明(MIHO MUSEUM 学芸員)
【会場】 同館南レクチャーホール
■《ミュージアム・フェスタ》館内各所で寸劇、クイズ、ワークショップなど開催
【開催】 8月27日(日) 10:30~16:30
【料金】 ワークショップ参加費 100~300円