優れた写実絵画は、理屈抜きで人を惹きつける。現代では、見たものを記録し再現するだけなら、スマホの写真を撮るだけで、いつでもどこでも誰でも簡単にできる。だが、実際の絵画とタブレットのデジタル写真を見比べてみると全然違う。写実絵画には、写真にはない独特の統一感と見応えとリアリティがある。その魅力は、いったいどこから来るのだろうか。
この展覧会が取りあげるのは、現在公募団体で活躍している若い世代を中心に真摯に写実的絵画を追究している9人の画家、版画家たちである。日本で「写実絵画」というとき、一般には「写真のような絵画」と了解されることが多い。しかし、本展では一見そのように見える小さめの静物画や人物画から始まって、絵の中に入っていけるような大きな風景画に続き、最後には未来の廃墟や脳の絵画や巨大な花やトウモロコシや幻想的作品にまで範囲を広げている。
企画者としては、「現代の写実」の本質は、芸術としての真実(リアリティ)の追究にあり、単に細密だったり、写真や映像に似ていたりすることにはないと考えている。むしろ、私たちが日常浴びるように接している膨大な量の広告やスマホの映像イメージにはない実在感やオーラや手触りが、彼ら9人の絵画には存在する。腰を落ち着けて鑑賞すると、それが分かる。画家の視線の能動性が、絵をリアルにさせているのである。
蛭田美保子は、料理した食物を拡大し自由に構成して私たちの先入観を打ち壊す。塩谷亮は、時間をかけて人物や植物を徹底的に描写しながら白昼夢のような雰囲気を作る。他の作家も、それぞれ絵の中で独自の解釈による空間を作り込んでいる。彼らは、絵を描くことで能動的に世界を構成しなおしているのである。絵画は静止しているが、見ていると普段とはまるで別の時間が流れているように感じる。
彼らの絵画は、私たちが日頃メディアやネットから受動的に配信され続けている映像の蓄積による閉塞感をリフレッシュしてくれる力を持つ。見て、元気が出る。この企画展の鑑賞者の皆さんには、それをぜひ感じ取ってほしいと願っている。
(山村仁志・東京都美術館学芸担当課長)
「現代の写実―映像を超えて」
【会期】 2017年11月17日(金)~2018年1月6日(土)
【会場】 東京都美術館 ギャラリーA・C(台東区上野公園8―36)
【TEL】 03―3823―6921
【休館】 11月20日(月)、12月4日(月)・18日(月)・25日(月)・31日(日)、1月1日(月・祝)
【開館】 9:30~17:30(金曜日は20:00まで、入室は閉室30分前まで)
【料金】 一般500円 20名以上の団体400円 65歳以上300円 学生以下無料(要証明)
【関連リンク】 東京都美術館
●出品作家
稲垣考二(国画会) 岩田壮平(日展) 小田野尚之(日本美術院)
小森隼人(白日会) 佐々木里加(女流画家協会) 塩谷亮(二紀会)
橋本大輔(独立美術協会) 蛭田美保子(新制作協会) 元田久治(日本版画協会)
■アーティストトーク:出品作家が語る写実表現
【日時①】 11月25日(土) 14:00~15:30 小森隼人、橋本大輔、元田久治
【日時②】 12月 2日(土) 14:00~15:30 塩谷亮、蛭田美保子、岩田壮平
【日時③】 12月16日(土) 14:00~15:30 小田野尚之、佐々木里加、稲垣考二
■講演会:現代の写実(リアリズム)とは?
【開催】 12月9日(土) 14:00~15:30
【講師】 山村仁志・東京都美術館学芸担当課長
【会場】 同館講堂
【料金】 無料、当日13:00より整理券を配布、開場は13:30