人は何故、「悪」に惹きつけられるのか。昨今、ドラマや映画、小説などで、悪役は時に主人公を凌ぐほどの魅力をはなつことが少なくない。そして江戸を生きた人々も、すでにこの「悪」の持つ底知れぬ魅力に気付いていたようである。
例えば、世間を騒がせた大盗賊が市中引き回しになると、その姿を一目見ようと街道は群衆で埋め尽くされた。また、「元禄赤穂事件」などの大事件はすぐに芝居にも移され、吉良上野介は稀代の悪人としてのイメージを定着させていく。幕末には、盗賊が登場する「白浪物」の芝居が流行し、盗賊や小悪党が人気を呼んだ。当時の人たちは現実、虚構を問わず、「悪」の持つ魅力に好奇心を抱き、時に酔いしれたのだ。
さまざまな悪人たちのイメージを描かれた浮世絵から探る本展覧会は、2015年に開催して好評を博した同名の展覧会のパワーアップ版。盗賊や侠客、浪人に悪の権力者、悪女、悪の妖術使いなど、実在した悪人から物語に登場する架空の人物まで、江戸の「悪い人」たちが、人数も倍増してふたたび大集合する。
なかでも見どころは「血みどろ絵」で知られる月岡芳年の《英名二十八衆句 福岡貢》(後期)だ。《英名二十八衆句》は兄弟子である落合芳幾との競作で、歌舞伎の残酷な場面を集めたもの。芳年は28枚のうち14枚を描いており、本作は『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)』で妖刀に取り憑かれた福岡貢が遊郭油屋で殺人鬼と化したシーンである。善人である登場人物が執拗な侮辱を受けて逆上し、殺人鬼と化す筋書きはしばしば歌舞伎に見られるものであった。
そのほか、歌川国芳が大盗賊石川五右衛門の釜茹で刑を描いた《木下曽我恵砂路》(後期)の壮絶な画面や、歌川国貞(三代豊国)《東都贔屓競 二 清玄 桜姫》(前期)《東海道四谷怪談》(後期)に見られる現代の昼ドラも顔負けのどろどろとした恋愛模様、落合芳幾《英名二十八衆句 佐野治郎左エ門》(前期)の善と悪のはざまを行き来する登場人物など、浮世絵の大家による「悪」のドラマが、時代を越えて私たちを魅了する。
本展にあわせて、美術館や博物館、ギャラリー、書店などの施設で「悪」をテーマにした展覧会やイベントを一斉開催。考古学、歴史、浮世絵、歌舞伎から現代のアートや漫画まで、様々な「悪」の姿を楽しむことができるだろう。
【展覧会】江戸の悪 PARTⅡ
【会期】前期:2018年6月2日(土)~27日(水)/後期:6月30日(土)~7月29日(日)
【会場】太田記念美術館(東京都渋谷区神宮前1-10-10)
【TEL】03-5777-8600(ハローダイヤル)
【休館】月曜日(7月16日は開館)、6月28日、29日(展示替えのため)、7月17日
【開館】10:30~17:30(入館は17:00まで)
【料金】一般1,000円 大高生700円 中学生以下無料
他分野連携展示「悪」
■東洋文庫ミュージアム「悪人か、ヒーローか Villain or Hero」
【会期】2018年6月6日(水)~9月5日(水)
■國學院大學博物館「惡-まつろわぬ者たち-」
【会期】6月1日(金)~8月5日(日)
■ヴァニラ画廊「HN【悪・魔的】コレクション~evil devil~」
【会期】2018年5月30日(水)~7月1日(日)
■国立劇場伝統芸能情報館「悪を演(や)る -舞台における悪の創造―(仮題)」
【会期】2018年6月2日(土)~9月24日(月)
■国立演芸場演芸資料展示室「悪を演(や)る -落語と講談-」
【会期】2018年4月1日(日)~7月22日(日)
■銀座 蔦屋書店
当イベント期間中、関連ブックフェア、トークイベント等を開催予定
■江戸の悪PartⅡ展 プレイベント 悪トーク ―多分野連携展示「悪」を語る
【第1回】2018年4月20日(金)14:00~15:30
【登壇】深澤太郎(國學院大學博物館)、田口葉子(ヴァニラ画廊)、〈司会〉日野原健司(太田記念美術館)
【第2回】2018年5月6日(日)14:00~15:30
【登壇】岡崎礼奈(東洋文庫ミュージアム)、石橋健一郎(国立劇場)、渡邉晃(太田記念美術館)、〈司会〉日野原健司(太田記念美術館)
【会場】太田記念美術館 視聴覚室(B1)
【料金】無料(申込不要、要入場券)
【関連リンク】太田記念美術館「江戸の悪 PARTⅡ」公式サイト