下道基行ら4名が協働制作―第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展、日本館の題材は「津波石」

2018年06月08日 18:08 カテゴリ:最新のニュース

 

美術家・作曲家・人類学者・建築家の4人が集団(コレクティブ)で取り組む

 

左より能作文徳(建築家)、安野太郎(作曲家)、下道基行(美術家)、服部浩之(キュレーター) ※石倉敏明(人類学者)は欠席

左より能作文徳(建築家)、安野太郎(作曲家)、下道基行(美術家)、服部浩之(キュレーター) ※石倉敏明(人類学者)は欠席

 

国際交流基金は6月7日、第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(2019年5月11日~11月24日開催)の日本館の展示プランを発表した。出品作家は美術家の下道基行、作曲家の安野太郎、人類学者の石倉敏明、建築家の能作文徳の4氏で、キュレーターは服部浩之。展示テーマは「Cosmo-Eggs│宇宙の卵」に決定した。

 

今回の大きな特色は、異なる領域の表現者による「協働」作品だということ。下道基行(1978年岡山県生まれ)は考現学と考古学をつなぐようなユーモラスな観察眼により、アジアを中心にリサーチやフィールドワークを軸とした写真作品等を発表してきた。安野太郎(1979年東京都生まれ)は空気を流してリコーダーを自動演奏する《ゾンビ音楽》などに取り組み、これまで小沢剛ら美術家とのコラボレーションも多数実施。石倉敏明(1974年東京都生まれ、秋田公立美術大学美術学部准教授)は東北を近年の主な研究対象とし、田附勝や鴻池朋子らとの協働制作を行うなど、人類学と現代芸術を結ぶ独自の活動を展開している。塚本由晴のもとで建築を学んだ能作文徳(1982年富山県生まれ)は、減築という手法で大胆なリノベーションを行なった《高岡のゲストハウス》が2016年の第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展において紹介されるなど注目を集める。

 

キュレーターとして4氏を集めた服部浩之(1978年愛知県生まれ、秋田公立美術大学大学院准教授)は、2009年から16年まで青森公立大学国際芸術センター青森[ACAC]で学芸員を務め、「あいちトリエンナーレ2016」をはじめとする多数のプロジェクトにも参加。記者発表では「ラスコーやアルタミラの洞窟に人類が描いた原初の風景は、そこに音楽や踊り、歌やことばが同時に存在していたことを物語っています。これまでアーティスト・イン・レジデンスに長く携わってきた経験を活かし、集団(コレクティブ)で取り組むことの今日的意味や課題を考えたい」と述べた。

 

「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」展示の様子 作成:能作文徳建築設計事務所

「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」展示の様子 作成:能作文徳建築設計事務所

 

「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」展示の様子 作成:能作文徳建築設計事務所

「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」展示の様子 作成:能作文徳建築設計事務所

 

「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」展示の様子 作成:能作文徳建築設計事務所

「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」展示の様子 作成:能作文徳建築設計事務所

 

展示タイトルは「Cosmo-Eggs│宇宙の卵」

 

展示の起点となったのは、下道基行が2015年に沖縄の八重山諸島で出会い、数年間リサーチと撮影を続けている「津波石」。大津波により海底から陸上に運ばれてきたそれらの巨石は、世界各地に散在しており、災害の記憶を留める自然石でありながら時には地域の信仰対象となった。今回は隕石や巨大な卵にも見える津波石を、広場あるいはモニュメントに例え、鳥の声のような自動演奏や、石と鳥にまつわる神話・民話のことば、入れ子構造の建築とともに提示。水没の危険性のある「死の町」とも呼ばれるヴェネチアの地で、石と水の照応関係を浮かび上がらせる。出品作家と服部は、今後一緒に沖縄の津波石を見に行く予定で、その印象を踏まえてまた展示プランを練り上げたいとしている。展示タイトルは「Cosmo-Eggs│宇宙の卵」。西アフリカや古代チベット、朝鮮半島、琉球諸島など世界中に伝えられた神話的モチーフで、世界の原初をイメージさせる言葉だ。

 

モチーフの津波石について解説する下道基行。会場ではモノクロで撮影した津波石の短い映像をループさせる

モチーフの津波石について解説する下道基行。会場ではモノクロで撮影した津波石の短い映像をループさせる

 

展示プラン提出前に行なった制作合宿の様子。協働制作の第一歩となり、服部は「この時の意見交換が展示を方向づけた」と振り返る

展示プラン提出前に行なった制作合宿の様子。協働制作の第一歩となり、服部は「この時の意見交換が展示を方向づけた」と振り返る

 

今回の指名コンペでは荒木夏美(展示タイトル未定、展示作家:目【mé】)、遠藤水城の「The Task of the Translator 翻訳者の使命」(展示作家:亜欧堂田善、雨宮庸介、井上有一、梅田哲也、法政大学出版局「叢書・ウニベルシタス」)、金井直の「verso le esposizioni vitali 生命の展示に向かって」(展示作家:白川昌生)、長谷川新の「Dancing Flesh, Tingling Blood 血沸き、肉躍る」(展示作家:眞島竜男)、林道郎「”Medium” as Site-generative and Transgressive Force: Art as World System(場を生成し越境する波動としての「メディウム」:世界システムとしての美術)」(展示作家:岡﨑乾二郎+中谷芙二子)の5案も候補となった。国際展事業委員会は「どれも概念的枠組みのしっかりした、読みごたえのあるものばかりであり、その点では甲乙つけがたかった」と講評。その中で服部案の美術家・建築家・音楽家・文化人類学者からなる「バランスのいいチーム編成」等が高く評価された。

 

委員会のメンバーは松本透(委員長・長野県信濃美術館館長)、柏木博(武蔵野美術大学名誉教授)、島敦彦(金沢21世紀美術館館長)、中井康之(国立国際美術館副館長/学芸課長)、長谷川祐子(東京藝術大学大学院教授、東京都現代美術館参事)、港千尋(多摩美術大学大学院教授)で構成された。

 

なお2020年春には、現在新築工事中のブリヂストン美術館での帰国展が予定されている。

 

 


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