2日限りの美術展―中目黒ART PROJECT「storage_0 ALICE」展

2019年06月19日 15:00 カテゴリ:最新のニュース

 

中目黒の閑静な住宅街に、新たなアートプロジェクトが熱を持って立ち上がった。

 

会場となった堤伸銅軽金株式会社の倉庫。

会場となった堤伸銅軽金株式会社の倉庫。

 

2018年、アートを通じた文化発信を目指して発足した「中目黒ART PROJECT」。主宰の漆崎孝子氏は、作家でも美術業界の出身でもない。しかし、特別な想いを胸に、プロジェクト初の展覧会「storage_0 ALICE」の開催を力強く牽引した。

 

きっかけは家族の死。2016年、息子の漆崎正樹さんは多摩美術大学大学院絵画専攻を修了した5カ月後、25歳の若さで天に旅立った。そのわずか4カ月後には、夫がくも膜下出血で急逝。短期間に立て続けに家族2人を亡くした漆崎氏は「死と生き続けることの意味を、毎日ひたすら考えた」と当時を振り返る。

 

やがて、「遺されたものをどうすれば活かせるか?」――その道を探すことが、自らが生き続ける意味ではないかと思い至る。そして、若い作家がやりたいことに挑戦できる場をつくれないだろうかと考えた漆崎氏は、そのための空間を探し始めた。

 

ある日、自宅近くのビルの大きなシャッターが目に留まった。この内側はどうなっているのだろう――漆崎氏は意を決して扉を叩き、内側を見学させてほしいと頼んだ。案内されたシャッターの内側は、天井高5メートルほどもある広々とした金属倉庫だった。

 

漆崎氏はその場で「この倉庫で展覧会をしたい」と応対した男性に語った。予想だにせぬ構想を持ちかけられ驚いたのは、この倉庫を所有する堤伸銅軽金株式会社の堤嘉延社長その人であった。最初は戸惑った堤社長も、漆崎氏の必死の説明に並々ならぬ熱意を感じ、耳を傾けた。

 

会場となった堤伸銅軽金株式会社。

 

シャッターの内側は吹き抜け構造の倉庫だった。 photo©新澤遥

シャッターの内側は吹き抜け構造の倉庫だった。 photo©新澤遥

 

一方、漆崎氏の想いを知り、仲間が集まった。正樹さんの院生時代の同級生たちだ。正樹さんとアトリエを共にした折笠敬昭・杉岡みなみ・山嵜雷蔵・浅野拓也は、それぞれに絵画制作を軸とした作家活動に邁進している。

 

4人の若手作家たちは、倉庫での展覧会をいかに成功させるか考え始めた。画廊などとは違い展示設備の整っていない倉庫で何をどう構築し、「ここでしかできない展覧会」にするのか――こうして、漆崎氏と堤社長の出会いから1年後、中目黒の倉庫は2日間だけのアートスペースへと変貌した。

 

会場風景 photo©新澤遥

会場風景。部分のみを照らす、下から照らすなど、ここでしかできない絵画展示。 photo©新澤遥

 

かつて人々は、月明かりや蝋燭のわずかな光を頼りに鑑賞していた。 photo©新澤遥

かつて人々は、月明かりや蝋燭のわずかな光を頼りに鑑賞していた。 photo©新澤遥

 

鑑賞者はペンライトを片手に会場を歩く。 photo©新澤遥

鑑賞者はペンライトを片手に会場を歩く。 photo©新澤遥

 

アーティストトークには大勢の人が詰めかけた。

アーティストトークには大勢の人が詰めかけた。

 

倉庫はあえて照明を落とし、最小限の光とブラックライトで作品を照らした。鑑賞者は仄暗い空間を、ペンライトを手にまわることになる。「見る」行為を制限された鑑賞者は、より一層「見たい」という気持ちを掻き立てられる。目を凝らし、歩き、照らす――自ら発見した作品との対峙は、「見る」という能動的な行為そのものとの対峙でもある。

 

他にも、備え付けのクレーンに作品を吊るといった展示方法や、むき出しの配管等を蛍光塗料で着彩し空間の特性を装飾する滞在制作の実施など、倉庫と作品との共存によって場所性を拡充する工夫が施された。

 

作家にとってオフギャラリーという選択肢が広がっている昨今、新たな展示空間の開発やプロジェクトの発起は、今後より大きな意味と役割を持つことになるだろう。「中目黒ART PROJECT」の積極的な活動にこれからも期待したい。

 

作品

 

【展覧会】「storage_0 ALICE」

【会期】2019年4月20日(土)・21日(日)

【会場】堤伸銅軽金株式会社(東京都目黒区中目黒4-4-2)

 

【問合せ】

E-mail:nakameguroartproject@gmail.com

 

【関連リンク】 中目黒 ART PROJECT「storage_0 ALICE」(Facebook)

 


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