いくつもの信州との縁が集い 影響しあって――日本画の冒険者たち:澁田見 彰

2019年09月17日 17:00 カテゴリ:最新のニュース

 

(左)西郷孤月《月下飛鷺》松本市美術館蔵 (右)菱田春草《羅浮仙》長野県信濃美術館蔵

(左)西郷孤月《月下飛鷺》松本市美術館蔵
(右)菱田春草《羅浮仙》長野県信濃美術館蔵 ※後期のみ展示

 

明治時代、西洋文化の流入により、大きく価値観が変わっていくなかで生まれた「日本画」という概念は、伝統的な技法を継承しつつも、時を経る過程で徐々に深化してきた。そして、それを牽引してきたのは、作家たちのあくなき探究心だった。自らと筆のみを信じて、未開の地を突き進む姿はまさに冒険者そのものだ。

 

例えば、長野市出身で南画の大家、川上冬崖は洋画研究の第一人者としても活躍し、高橋由一や小山正太郎ら多くの後進を育てるなど、明治期の洋画技法の礎を築いた。また、近代日本画の興隆に重要な役割を果たし日本美術院の草創期を支えた松本市出身の西郷孤月、飯田市出身の菱田春草は、横山大観、下村観山らともに「日本美術院の四天王」と称された。

 

本展覧会は、長野県信濃美術館と松本市美術館の共同企画として、両館の日本画コレクションより選りすぐり、長野県また松本地域の日本画の変遷を辿りつつ、現代の表現の多様性、さらにはその可能性をご紹介するものである。両館とも地域との「縁(ゆかり)」が作品と美術館を結び付けているといえるだろう。それは地方美術館の大切な個性であり、存在理由でもある。

 

本展出品作家の多くが信州に生を享けている。日本画をその表現手段として選択した彼らの根底には、信州の雄大な自然と、人々との交流のなかで育まれた感性があった。

 

もちろん、自身の意思でこの地を選んだ者もいれば、戦時中の疎開によって関わりをもった作家、また美術館の存在がその契機となった作家もいる。いくつもの信州との縁が集い、影響しあってこの地域の日本画があるのだろう。

 

信州を中心とした縁と、この地を起点とした日本画の冒険者たちの足跡と成果をぜひご覧いただきたい。(松本市美術館学芸員)

 

菊池契月《立女》長野県信濃美術館蔵※前期のみ展示

菊池契月《立女》長野県信濃美術館蔵 ※前期のみ展示

 

【展覧会】長野県信濃美術館・松本市美術館 交流展「日本画の冒険者たち ―この秋、信州の名品に出会う―」

【会期】2019年9月21日(土)~11月24日(日) ※作品保護のため会期中一部展示替え有り
    前期:9月21日(土)~10月20日(日)
    後期:10月22日(火・祝)~11月24日(日)

【会場】松本市美術館(長野県松本市中央4-2-22)

【TEL】0263-39-7400

【休館】月曜(祝休日のとき翌平日)

【開館】9:00~17:00(入場は16:30まで)

【料金】一般1000円 大学高校生・70歳以上の松本市民600円 中学生以下無料

【関連リンク】 松本市美術館 長野県信濃美術館 

【イベント情報】

◇ ギャラリートーク
日時/2019年10月5日(土)、19日(土)、26日(土)、11月9日(土) 各日14:00~
参加費/無料
参加方法/先着20名程度(申込不要)

 


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