「いのち」と触れあうつくり手たち――いのちをうつす:大内 曜

2023年11月14日 14:00 カテゴリ:最新のニュース

 

小林路子《アメリカウラベニイロガワリ》作家蔵

小林路子《アメリカウラベニイロガワリ》作家蔵

 

人間は、他のいきものたちと、どのように向き合っているだろうか。

 

東京都美術館で開催中の上野アーティストプロジェクト2023「いのちをうつす -菌類、植物、動物、人間」では、絵画や写真、版画、彫刻といった自身の表現活動を通して、特定のいきものと数十年という時間をかけて向き合い続けてきた/続けているつくり手6名に注目し、「うつす」という営みの中で繰り広げられる他の「いのち」との触れあいの多様なあり方を見つめていく。

 

辻永《おらんだみつば》1935年6月10日 水戸市立博物館蔵

辻永《おらんだみつば》1935年6月10日 水戸市立博物館蔵

 

小林路子(こばやし・みちこ)は、地中において周囲の様々ないきものと関係を結ぶことで生きている菌類の、地上に生え出た部分であるきのこを、約40年間にわたり描き続けている。明治末から昭和期に活躍した辻永(つじ・ひさし)は、10代の頃から晩年まで約60年以上、日々、身の回りの草花を愛で、そのスケッチを続けた。描かれた珍しいきのこや草花の姿を通し、その背景にある目には見えない生命の連続性や描き手の心情などについて、思いを巡らせていただけたらと思う。

 

今井壽惠《メジロマックイーン》1993年 清里フォトアートミュージアム蔵 ©Hisae Imai

今井壽惠《メジロマックイーン 優雅に立つ》1993年 清里フォトアートミュージアム蔵 ©Hisae Imai

 

戦後の写真界に鮮烈なデビューを果たした今井壽惠(いまい・ひさえ)は、1970年代から2009年に亡くなるまでの間、世界各地の競走馬たちを取材し、その撮影を続けた。その卓越した撮影技術と生まれ持った感覚によって捉えられた馬たちの一瞬の表情と姿の中に、馬が持つ「情感」を読みとっていただけるだろうか。移住した北海道で酪農の仕事をしながら牛たちを木版画に描いてきた冨田美穂(とみた・みほ)は、人間にとって最も身近な家畜である牛という存在を想うことを私たちに促す。

 

冨田美穂《1177》2017年 作家蔵

冨田美穂《1177》2017年 作家蔵

 

上野アーティストプロジェクトは、1926年の開館当初より公募団体と共に歩んできた東京都美術館の歴史の継承と発展を目指す展覧会シリーズだ。これまで公募団体で活躍する様々な作家を紹介してきたが、今回は日本バードカービング協会の会長である内山春雄(うちやま・はるお)、美術団体・一陽会に所属し、世界中の実在するゴリラの姿を描き続けてきた阿部知暁(あべ・ちさと)に注目する。

 

内山春雄《ヤンバルクイナ》2020年 作家蔵

内山春雄《ヤンバルクイナ》2020年 作家蔵

 

6名の作品を通し、自分の周囲にある、様々な「いのち」ともあらためて向き合う機会になることを願っている。(東京都美術館学芸員)

 

阿部知暁《スノーフレーク》2000年 作家蔵

阿部知暁《スノーフレーク》2000年 作家蔵

 

 

【展覧会】上野アーティストプロジェクト2023 いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間

【会期】2023年11月16日(木)~2024年1月8日(月・祝)

【会場】東京都美術館 ギャラリーA・C(東京都台東区上野公園8-36)

【TEL】03-3823-6921

【休室】11月20日(月)、12月4日(月)、18日(月)、21日(木)~2024年1月3日(水)

【開室】9:30~17:30(入室は17:00まで)

    ※11月17日(金)、24日(金)、12月1日(金)、8日(金)は9:30~20:00(入室は19:30まで)

【料金】一般500円 65歳以上300円 学生以下無料

【関連リンク】 上野アーティストプロジェクト2023 いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間

 

 


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