■団体展出品者と公募展の現状
―そもそも先生方はプロの作家を育てていきたい、という思いがあるのでしょうか。
山本:どうだろう?
奥谷:これは難しいですね。できたらプロの作家になってもらいたいけど、これは才能というものが付いてくるから。団体展は楽しく描ければいいという人と、これで飯を食べていくという人などいろいろいるわけで、その辺がおもしろいんだと思います。
山本:以前、国立新美術館の青木館長と、ニッポン的な民主主義ともいえるようなことについて話していて、歌会始、それから万葉集があるけれど、そこでは庶民やお百姓さんも貴族も武士も、いろいろ混成なんです。皆が肩を並べて一緒に歌を詠むというのは、かなり民主主義的な要素がある。いろいろ議論があるところだけれど、今の公募展というのはそういう流れで、ものすごいベテランや本当のプロがいて、楽しみで描いているアマチュアの人の絵がその隣にあっても、別に不自然ではなく一緒にやっているというのが、その時代からの流れなのかも知れないということを言っていました。なるほど、そういう見方もできるんだなと思って目からウロコでしたね。
―今年で独立は83回展、二紀は69回展を迎えます。草創期から混乱や拡大そして成長があり、今は変革期にあるのでしょうか。
山本:団体展もいろいろな歴史があるけれども、ある時期までは結構分裂しています。二紀会も二科会から分裂してできた会です。分裂して大きくなったものが、ほどほどの規模の組織になって、ずっときていると思うんです。分裂している時代というのは、マグマみたいなものが溜まっているわけで、この会はこれで行くぞという旗を立てた人の、旗の気配が濃厚に残っていた。けれど、今やもう大体どこでも同じみたいなことになっている。そうかといって団体が減っているわけではないんですね。どうですかね?
奥谷:すごく難しいですね。独立の会則など見ていると「わが国の美術振興に寄与する…」と書いてあるんです。『独立美術協会80年史』を作ったときに思ったんだけれど、創立会員から何世代かの人たちというのは、ものすごく努力しているんです。そういう努力があったから、今があるんです。一方、若い人を見ていると、発表の場が多いというか公募展というものにあまり興味がないような時代なんです。ただ新しい人がいなくなったらその会はつぶれるし、やはりリーダー的な人がいないとこれも困るし。最近は一般紙にもほとんど公募展のことを書いてくれないでしょう。
山本:若い人がいなくなるということは、世間の少子化の問題とも関係があるし、美術学校とも関係がある。それから画材屋さんがなくなっているとか、今までのようにプラスに働くような要素がどんどん減っていくということになります。それに若い人はマンガやアニメやフィギュアなどそういう別の興味や、電車の中で並んでスマホのゲームをやっているような時代だから、時間をかけて自分の思いをキャンバスに描き上げていくというような持続していくもの、そういうものは僕らの世代から見ると、なくなってきたというか違ってきました。マンガの場合だと何十万部も売れるという産業でしょう。こちらは芸術だから、産業の分野で若い人たちがおもしろがっている時代に、精神論だけでは勝てない部分があります。現代の世相と向き合い若い世代と会を結ぶ。ここが大きな課題ですね。
■ 独立と二紀で切磋琢磨を! プロの美術家に期待する
―突拍子もない発想かもしれませんが、同じ会期の独立と二紀が交流する。会場内での交流というのは難しいかも知れませんが、他の会場で例えば前年の受賞作家の新作展を一緒に行うとか。それは業界内での一つの話題性かも知れませんが、独立、二紀という単体での発表だけではなくて、新たな枠組みでのコラボレーションはいかがでしょうか。
山本:そういうコラボに関しては、メディアの皆さん、それから画商さんあるいは美術館が積極的にやってくれればできるでしょう。けれど画商さんは売買実績も重要ですからね。
奥谷:画商さんもだんだん変わってきていますが皆同じような枠組みで、もっと何か新しい考えで少し違った切り口でやるとか、新人をもっと持ち上げてくれるとか、そういう人が出てくることを期待したいですね。
―先生方はプロとして生きて来られた中で「プロで生きる」ということに何が必要なのかを、最後に一言ずついただければと思います。
奥谷:やはり好きでないとだめです。簡単に言うと、好きであるということと、例えば僕だったら平面絵画で、油絵具にこだわっていて、そういうこだわりがないと続けていけないですね。
山本:それがしっかり押さえられていれば、売れる、売れないなんていうのはどうでもいいということになる、まあ夫婦喧嘩はしょっちゅうだと嘆いていた友人もいるけれど(笑)。売れなくても好きだから描いているという王道をいく絵描きは、実はたくさんいると思うんです。
奥谷:やはり自分で探していかないとだめですよ。求めてね。まあ命を懸けると言ったらオーバーだけど、そういう覚悟は必要ですね。何としても俺はこういう絵を描きたいとか、そういうものを探していくと幾らでも自分の実になるようなことは生れてきますからね。
―本日は、貴重なお話をありがとうございました。
2015年9月10日学士会館にて ©美術年鑑社
「新美術新聞」10月11日号より転載
第83回独立展 巡回展情報
大阪展 2015年11月10日(火)~15日(日) 大阪市立美術館
京都展 2015年11月24日(火)~12月6日(日) 京都市美術館
名古屋展 2016年3月15日(火)~21日(月) 愛知県美術館
鹿児島展 2016年4月16日(土)~24日(日) 鹿児島県歴史資料センター黎明館
福岡展 2016年4月26日(火)~5月1日(日) 福岡市美術館
第69回二紀展 巡回情報
名古屋展 2015年11月3日(火・祝)~8日(日) 愛知県美術館
京都展 2015年11月17日(火)~22日(日) 京都市美術館
広島展 2016年2月2日(火)~7日(日) 広島県立美術館
福岡展 2016年3月1日(火)~6日(日) 福岡市美術館
長崎展 2016年5月17日(火)~27日(金) 長崎県美術館
金沢展 2016年5月31日(火)~6月5日(日) 金沢21世紀美術館