千住 薬師寺は学問の寺です。中国からの最先端の学問、様々な宗派や建築技術、医学の知識が日本に入ってきたとき一大教育・教養のセンターであり総合研究としての場が薬師寺でした。
金剛峯寺はまさに修行の寺です。たったひとりで修行するための、夜になれば星以外に何もない。金剛峯寺が一番すばらしいのは最も厳しい季節、雪によって下界と完全に遮断される冬であると修行僧は言います。
三つとも比較は不可能です。
—その薬師寺の武田成功先生との二人展『水と光の幻想』は大変工夫が凝らされています。幻想的な風景でブラックライトが巧みです。
千住 螢光塗料で描いてブラックライトで照明を当てていると、日本画もここまで来たのかという意見とこれは最早日本画ではないという意見と分かれるでしょう。ただ伝統—トラディションの「トラ」はトランスのトラと一緒で、「枠を広げていく・乗り越えていく」が、本来の伝統という意味です。一番外側の枠を広げていくことが、実は私たちに課せられた使命です。伝統とは墨守、守って内側に保っておくのではなく、押し広げていく人たちの歴史こそが「伝統」です。永徳、等伯、光琳、若冲、誰をとっても一番外側の枠を広げた、その画人の道が日本画の歴史です。
—高野山・金剛峯寺の襖絵は、どういう内容でしょうか。
千住 全く未定です。何を描くか、まだわかりません。私は一度、高野山夏期大学で講義をしたこともあり、高野山には何回か行っています。このお話が決まってから、添田隆昭・宗務総長にはまだ2回しかお会いしていません。今度ゆっくりお話ししてみてからです。5年がかりか、10年後の完成か。ただ添田様の退官までに創ることをせめてもの恩返しにしたいと念願しています。
—大震災「3・11」について
千住 僕が崖の絵を発表したのは、結局それは3・11を体験した日本人に対する応援のような絵なのです。あるとき、僕は自分のアトリエの足元に傷ついて捨てるしかない和紙を見つけました。いつもなら捨てているけど、その傷が壮大な風景に見えた。絵具をのせてみたら美しい崖が出現した。自らたまたま付けてしまった傷を直視することでその中に美を見出した。美とは生きる勇気です。これこそ今の日本人に対して芸術家から発信しなければいけないメッセージだと感じたのです。
「新美術新聞」2016年3月11日号より転載
●千利休 菩提寺 狩野永徳筆 国宝障壁画 大徳寺 聚光院 創建450年記念特別公開
【会期】3月1日(火)〜2017年3月26日(日)
【会場】大徳寺 聚光院(京都府京都市北区大徳寺町58)
【TEL】075-231-7015(京都春秋事務局)
【拝観休止日】各月27・28日と 3月9・19日、5月21・22日、6月10・11日、7月4日、8月9・10日、9月7日、
10月3・4・13・14日、11月21・22・29日、12月9・10・29〜’17年1月3日、2月2日、3月9日
【料金】一般2000円
【関連リンク】京都春秋
●法相宗大本山 薬師寺 国宝 東院堂『水と光の幻想』千住博(日本画) 武田成功(ガラス)
【会期】3月3日(木)〜3月31日(木)
【会場】薬師寺 東院堂(奈良県奈良市西ノ京町457)
【TEL】0742-33-6001
【休日】無休
【料金】1100円
【関連リンク】薬師寺