同時代の作家とともに、過去の評価が重要
館長 一つの画商が一つの美術館の作品収集のお手伝いをした、というのは日本では極めて稀なことだと思います。
副館長 そこには長谷川仁の「名作をより多くの人たちに」という考え方を結局私たち二代目も継承していますから、公益財団法人になるときも、子供たちに財産を残すというよりも全部寄付しようという気持ちになりましたね。やはり日動画廊という画廊が昭和、平成という時代にあって、美術館を通して地域文化に寄与できたという方を選択しました。
―震災後の美術を取り巻く現状はいかがですか。
館長 やはり大変ですよ。じっと耐え忍ぶしか手がないという状況です。美術界全体が沈滞していますが、その一方で良い展覧会には人が入りますから、そういう意味では愛好家の層であり、底辺は広がっている、というところが頼りだと思います。
副館長 愛好家の視点からも、自分の家に作品を一枚はという要望は非常に多くなってきています。そのなかで今は確かに政治も経済も低迷していますが、いつまでもそうではない、日本という国は絶対に立ち直っていくと、そこには美が必要であり、美術の力が欠かせないと、私は信じたいですね。
館長 美術は永遠であるし、文化というものはその国を象徴するものですから、国のトップがそこを大事に考えてくれないと日本は生き残れないですし、伝統を断ち切ってしまうことは駄目ですよ。美術品を買えばそれは財産として残る訳です。そういう考えを持たないハコモノ行政が日本の美術界を貧しくしているんですよ。
―まもなく画商生活50年、昭和会展も50回目前ですが、この先の展望はいかがですか。
館長 うちの場合は三代目に頑張ってもらうしかないでしょう。私はあと2年で75歳になる訳だから、もうガタガタやる時期ではなくなってきている。それよりも早く若い世代が育ってくれることを望みたいですね。それには今、あまりにも美術界は暗いですから良い時代にしてあげたい。
―同時代、同世代の作家と歩むという考えかたですか。
館長 それが一番大切ですが、しかし同じ世代の作家だけでは食べていけないんですよ。むしろ我々が育てている側であって儲けようということは出来ないんです。それがないと次の世代はないけれど、それとともに過去の遺産をうまく評価していかなければならない、これをどう評価していくかが重要なことなんです。
―コレクターも育っていないと良い循環にはならないでしょうし。
館長 それはそうですよ。大型のコレクターがだんだんいなくなってしまって、国内における展望はそう簡単ではないですよ。
副館長 だからこそ経済が良くなり株価が上がってくれれば、自然とその流れは出来てくるでしょう。日本人はやはり美術が好きですし、日本人の美意識は凄いですよ。ところが一旦落ちないと気が付かない、皆、自分たちに火がつけば頑張ると思います。
館長 最近は当館の所蔵品展を他館で行いますと、講演会もお願いしたい、という依頼があります。私たちは梅原龍三郎、中川一政、小絲源太郎、林武、東郷青児、鳥海青児など近代洋画の作家とほとんど直に付き合っていて、単に絵を扱うだけではなく、アトリエまで入って、さらには私生活的な面でも付き合いがある。そうした画商がもういなくなってしまったのではないか。単に商品として扱うだけではなく、もっと密に出入りさせて頂いたので、たくさんの思い出話もあって、それを皆さん聞きたがっているのではないかと。いわゆる美術論ではなく、作家の温かさや人柄、生活などが絵とともに興味があるようです。
―今展でもお二人の対談会があるようですね。
副館長 「20世紀フランス美術の栄光展」という展覧会で、フォーヴィズムやエコール・ド・パリの作家などを紹介しています。切り口も工夫し非常に親しみやすく、これまでに展示したことのない作品も多く出品しています。講演会では皆さんいつも熱心ですし、質問も良く頂いております。そういう意味では美術愛好家の層は確実に育ち、広がっていると思いますよ。
―今後も美術界の発展のため、さらなるご活躍を期待しております。
(9月13日、銀座・日動画廊本店にて)
20世紀フランス美術の栄光展 鎌倉大谷記念美術館所蔵 ヴラマンク、デュフィを中心に
【会期】 2012年9月13日(木)~11月25日(日)
【会場】 笠間日動美術館企画展示館(茨城県笠間市笠間978-4)
☎0296-72-2160
【休館】 月曜、祝日のとき翌日 【開館時間】 9:30~17:00(入館は閉館30分前まで)
【料金】 大人1000円 大学・高校生700円 中学・小学生500円 65歳以上800円(春風萬里荘との共通券有り)
【関連リンク】 笠間日動美術館公式ホームページ
対談会「私が惚れたフランス美術」
10月7日(日)15:00~16:00
【講師】 長谷川徳七館長、長谷川智恵子副館長
【会場】 同館企画展示館
【関連記事】 笠間日動美術館 開館40周年インタビュー 長谷川徳七館長・智恵子副館長に聞く 〈1〉
「新美術新聞」2012年10月1日号(第1292号)1面より