【団体】 第80回記念 独立展 - 独立美術協会の80年 個と協働の集積 〈1〉

2012年10月09日 17:37 カテゴリ:その他ページ

 

 

 

独立美術協会の80年 個と協働の集積

宝木範義(美術評論家)

 

洋画の公募団体として1930年に林武、児島善三郎ら平均年齢35歳という若き画家14名により創立された独立美術協会。以来、在野精神のもと近代美術史に名を残す作家を数多く輩出してきた。第80回記念展にあたり、同会会員の中心的存在である奥谷博、絹谷幸二、林敬二、松樹路人、桜井寛、大津英敏、福島瑞穂、馬越陽子の同展出品作を宝木範義氏の寄稿文とあわせ一足早くお届けする。また2面には今井信吾、齋藤研の両会員より80回展への思いを寄せていただいた。

 

 

林敬二「貌・廻天」200号F

奥谷博「天空に舞う」200号F

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

独立美術協会創立80年に向けての具体的な準備が始まったのは、一昨年の年頭のことであった。80

年史の編集もそのひとつである。筆者は10年前に開催された「独立美術協会70回記念展、輝け日本油画」に、富山秀男、原田光、両氏とともにかかわって以来、官展との対立軸として独立展が果たした大きな役割を強く意識してきたのだが、改めて今回の作業を通して、独立展に参加することで次のステージ、次の時代へと舵をきり、意識的に自己を拓いていった画家たちがいかに多かったかを再認識した。

 

80年史の編集にあたっては、それらの記録を公平に盛り込む方針が取られたから、本書の刊行は独立展にとどまらず、わが国の近代洋画の展開そのものにも、有意義な光をあてることになるだろう。

 

絹谷幸二「緑に染まる想い出 眞康と私」150号F

桜井寛「シュミーズの女」150号F

 

では独立展ならではの意義とは何か。このことについては、70回展の際の本紙特集紙面(2002年10月21日号)座談会が参考になる。奥谷博、絹谷幸二、馬越陽子、大津英敏と、四氏が出席した座談会の司会者として、筆者は立ち会ったのだが、その冒頭、奥谷博は独立展への初出品をこう述べて、その魅力に触れている。

 

「展覧会に活気があって、何か引き込まれる魅力のある作家が多いと感じていましたから、純粋に独立展になぜ出品するかというようなことは、あまり考えなかったですね。結局、公募団体展というものは、〈独立の自分〉ではなくて、〈自分があっての独立〉だと思うので、その中で自分を磨いていけばいいと思ったのです」

 

林武、児島善三郎らの創立会員、また高畠達四郎、須田国太郎、野口弥太郎、海老原喜之助といった、当時、現代絵画を先導した面々がまだ元気だった頃を彷彿させる一方、その中で熱く語られていたであろう、あるべき絵画をいかに創造するかという課題が、初出品の奥谷博にまで浸透していた事実に驚く。

 

 

大津英敏「画室の少女」150号F(制作途中)

福島瑞穂「Love Me Tender Love Me Sweet」200号F

 

だからでもあろう、編集会議のさなか、今井信吾がふと問わずがたりに、針生鎮郎、松本英一郎を回想しつつ、若手の間にあった深い葛藤と苦悩に触れたのを、かつての闘将・林敬二が「今はもう恩讐の彼方でいいんじゃないか」と穏やかに引き取った一言には、まさに千金の重みがあった。巨匠の存在と、その影のもと苦闘する後続世代。独立展の活力を支えたのは、これらの表には現れない過剰なまでの想念の渦でもあったことだろう。奥谷博が80回展にかけるなみなみならぬ熱意には、その全てが託されているに違いない。

 

奥谷博、林敬二、絹谷幸二、松樹路人、桜井寛、大津英敏ら「十果会」の実績、馬越陽子、福島瑞穂ら女流画家の活躍、そして「独楽の会」から「Evolution」へと続いた中堅、若手の活気。独立展はこの後、90回展、100回展と、更に進化を遂げてゆくものと確信する。

 

馬越陽子「人間の大河―再生するいのち―」200号F

松樹路人「私を描く私」60号S(制作途中)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【会期】 2012年10月17日(水)~29日(月)

【会場】 国立新美術館(東京都港区六本木7―22―2)

☎03-6812-9921(会期中のみ)

【休館】 10月23日(火) 【開館時間】 10:00~18:00(金曜のみ20:00まで、入館は閉館30分前まで)

【料金】 一般700円 全ての学生、生徒、障害者と介助者、75歳以上は無料

【関連リンク】 独立美術協会公式ホームページ

 

記念パネルトーク

「『独立の80年を語る』―独立の底力-」

10月20日(土) 14:00~16:00

【ゲストパネリスト】 宝木範義(美術評論家、明星大学特別教授)、富山秀男(美術評論家、神宮美術館館長)、南嶌宏(美術評論家、女子美術大学教授)、本江邦夫(美術評論家、多摩美術大学教授)

【会場】 展覧会場1階

【料金】 無料、要チケット

「『独立展を彩った名作』―独立80年を語る―」

10月27日(土) 14:00~16:00

【ゲストパネリスト】 酒井忠康(美術評論家、世田谷美術館館長)、原田光(美術評論家、岩手県立美術館館長)、土方明司(美術評論家、平塚市美術館館長代理)

【会場】 国立新美術館3階講堂

【料金】 無料

 

「新美術新聞」2012年10月11日号(第1293号)1面より

 

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【関連記事】 独立美術協会展70回記念座談会(「新美術新聞」再録) 〈1〉

 


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